児童誌編集部、宣伝部、雑誌編集部などの経験を経て、2002年から出版局で歴史、美術書編集に携わる。2004年から文芸書の編集に。『謎解きはディナーのあとで』は、前任者異動による引き継ぎで、単行本向けの書き下ろし2作から担当。

宣伝部書籍宣伝課、雑誌宣伝二課を経て、1999年からコミック宣伝課に異動。映像化にあわせた宣伝・販売戦略を積極的に行うと同時に、作品の世界観や作者の熱意も大切にした宣伝を重視。2007年から書籍宣伝課に異動。

マーケティング局書籍営業二課に配属。現在に至る。

矢沢 『謎解きはディナーのあとで』は、私にとって意外、意外の連続でした。これは『文芸ポスト』や、文芸誌『きらら』で連載した作品に、書き下ろし2作を加えて2010年9月に出版したもの。ミステリーファンや東川先生のファンには魅力的な作品だと思いましたが、ミリオンを超える売り上げは、最初はまったく予測していませんでした。

備前島私たち宣伝や販売が販売戦略を検討するのは、商品になる前のプルーフと呼ばれる見本版が渡されてから。私はそれを読んで、内容の面白さに加え、宣伝する材料も多い小説だと感じましたね。

小松そうしたプルーフは販売・宣伝の部署だけでなく、全国の協力書店にもお送りして、その反響を生かして販売戦略を立てることも増えています。

矢沢そこで、多くの反響が返ってきたと聞きました。

小松ええ、通常の2倍以上のレスポンスがあり、また主役の一人である執事に対するコメントが非常に多かったのが印象的でした。

矢沢その執事を始めとする魅力的なキャラクター設定は、東川先生のアイデア。「執事が探偵になるミステリー小説で、現場を見ないで事件を解決する『安楽椅子探偵』にしたい。それなら現場に行く役割として、執事が世話をするお嬢様を刑事に」と、前任の編集担当者と話しながら決まっていったようです。

備前島装丁に使われた中村佑介さんのイラストも、読者の目を引いたのでしょう。

矢沢『きらら』の表紙を描いていた、人気イラストレーターの中村さんに、単行本にする時にイラストをお願いしました。出版後の感想でも、「表紙が書店で目立った」「この絵が好きで手に取った」という声をよく聞きます。

備前島販促物や宣伝物は、好評だった書店からの反響を参考にしました。また中村さんのイラストも使って、イメージづくりに役立てました。

備前島 私が特に強い宣伝材料と感じたのは、中村さんのイラスト、本格ミステリーでも読みやすい内容、執事の毒舌セリフに書店から多く感想が寄せられたことでした。

矢沢 確かに「こんなひどい性格の執事、最高」というコメントもあって(笑)。本のオビにも積極的に使って魅力を伝えていきました。

備前島 ただ、こうした素材をそのまま紹介しても、最初から一気に売れるケースは少ないのです。私は執事とお嬢様の設定、中村さんのイラストなど、この小説の世界観は少女マンガと親和性が高いと感じていました。そこで多くの読者を獲得する突破口として、少女マンガファンを想定したのです。

小松 たとえば最初の書店用POPは、その執事の毒舌をフキダシにして、中村さんのイラストをメインに使ったもの。一見マンガのような仕上がりです。

備前島 同時期に雑誌に掲載する広告では、書店POPの要素に加え、書店からのコメントでとくにキャッチーな部分を、許可を得て掲載しています。文芸書籍は初版から短期間で増刷して、書店に「この本は売れる」と実感していただき、店内や棚の目立つ場所においていただくことも大事。そのために面白さ、手に取りやすさ、インパクト重視の宣伝に力を入れました。

矢沢 確かに、初版から1週間経たずに増刷が決まりましたね。東川先生に連絡すると、「これまでにない経験」と驚かれました。

小松 9月初版で、10月には4刷5万部まで伸びていたと思います。特に販売と宣伝がしっかり協力して、「この宣伝が始まる時期、市場に本がたくさんある」という市場在庫の管理には配慮してきました。

初版時に使用した書店用POP。イラストを中心に
執事の毒舌セリフを印象的に使用。