STEP2 編集業務正しくて面白い。小学館の図鑑のつくり方。

■生き物の図鑑は、生物学的に正しく構成する

『NEO』はどうつくられるのか。編集者は『動物』『魚』『岩石・鉱物・化石』など分冊ごとに担当者が割り振られるが、そのジャンルに詳しい人が選ばれる訳ではない。誰でもどんなジャンルでも担当する可能性がある。そこで重要なのが“体験”だ。

「図鑑の担当として、どこに興味を持ち、どうのめり込むかは人それぞれ。私は体験して面白さを見つけるのが、基本ではないかと思います。

図鑑の編集は扱うデータが膨大なので、ある程度整理が得意な人が向いているのですが、興味の面では誰でも図鑑編集者になれると思うんです。ただし、オタク的に突っ込み過ぎるのではなく、クールな視点と熱っぽくハマるバランスが大切です」。

とはいえ、編集者が興味のある項目を興味のある順に並べたからといって、いい図鑑になるわけではない。では、どうすればいいのか。“面白くてわかりやすい”ということが『学習図鑑』から『NEO』まで貫かれている、小学館の図鑑の基本方針だ。

「分野ごとに適した著者に執筆や監修をお願いし、記述を正確にする。これは絶対に必要なことです。ページ構成も大切です。例えば生き物を紹介する学習図鑑は、子ども向けの生物学の本と捉えています。ですから『NEO』の『昆虫』では、カブトムシやクワガタといった人気者が巻頭には登場しません。進化の道筋に沿って生物の基本的な並び順で紹介するので、巻頭は原始的な姿を残している生物になるのです」。

正しくて面白い図鑑だから、子どもたちが興味を持って読み、学校や塾、保護者たちからも高く評価される。これが『NEO』No.1の座を支える秘密のひとつだろう。

■著者との出会いを求めて日々研究

テーマと担当編集が決まると、次は監修や執筆を依頼する著者探しだ。『NEO』編集部では、やはり自分たちの出会いや体験から監修者・執筆者を探すことを基本にしてきた。

「もちろん専門的な話までは理解できません。しかし何度も接していると「この人の話はわかりやすい」「あの人は勢いがある」など、次第に著者ごとの違いが見えてきます。そこで説得力がある、専門分野が合っている、表現力あることなどを総合して、執筆者や監修者を決めていきます。「是非この人に!」と担当編集者がほれる方を見つけられればしめたものです」。

図鑑の文章はそうした専門知識を持った著者が書くのだが、個々の紹介文はとても短い。また子ども向けなので、研究者用語ではない、わかりやすい言葉で書いてもらう工夫も必要だ。

「“十脚目”ではなく、“エビ・カニのなかま”ではどうでしょうか? といったやり取りなどを通して、少ない文字数でも、読みやすくてわかりやすい文章にするようお願いしています。

一方で編集者が勘違いで突っ走るのは避けなくてはいけません。例えば編集者が2枚の写真を見て『これは同じ生き物だ』と思い込み、片方を間違った名前で掲載するケースなどが起これば目も当てられません。執筆者や監修者とこまめに連絡を取り合い、逐一確認し、そうした誤りや行き違いを防ぐようにしています」。

■沖縄の海岸から氷点下の河川敷まで!

『NEO』の特色のひとつが、かつての『学習百科図鑑』まではイラストだった個体紹介を、『昆虫』『魚』『水の生物』『両生類・はちゅう類』などでカラー写真に変更したことだ。

「イラストはわかりやすいのがメリットですが、ジャンルによっては、写真のリアルさが勝る場合があります。魚や昆虫、貝などは写真がわかりやすいと判断し、『NEO』ではすべて写真にしました。『NEO』は巻によっては1冊あたり約2000点もの写真やイラストを掲載していますが、おおむね好評をいただいています」。

沖縄だけで捕れる生物を撮影するため現地に赴き、昆虫の企画では氷点下の河川敷で越冬する虫たちを撮った。しかしこうした屋外での活動は、図鑑編集者の仕事のごく一部。普段はデスクで資料や誌面と向き合い、正しさと面白さとわかりやすさに心を砕く、地道な毎日なのだ。

図鑑編集者の日常はとても地道だ。執筆者・監修者との詳細なやりとり。撮影ではスケジュールや場所の調整をし、撮影後は何を撮ったか、未撮影の対象物をいつ撮るかの確認リストづくりに没頭する。イラストも描き起こしの依頼と資料集め、出来上がりのチェックがあり、管理するデータはさらに膨大になる。そして誌面構成を考え、内容をチェック……校了まで、忙しい日々が続く。

最新刊『岩石・鉱物・化石』の編集では、担当編集者を中心にして編集部で鉱物採集や化石発掘の現場を体験。「金(きん)だと思ったら黄銅鉱だった」など、初心者らしい気づきや興味を誌面に反映させるなど、体験から生まれた記事も多い。

いかにも“キングコブラらしい”威嚇ポーズを、正面から美しく撮りたいという編集者の意図で、専門研究機関の協力を得て特別な体制で撮影。この成果は『両生類・はちゅう類』のコブラの項目に掲載されている。