02.ブランド価値を高めるために
それぞれのメディアに求められるもの
-Webは雑誌では届かない層に、とのことですが、どんなあり方、方法なのでしょうか。
山野
Webの読者には、大きく分けると2種類あります。何かに困っていて、それを解決できる情報をピンポイントで探す人と、逆にちょっとした情報を消費したいという人。後者に距離が近いコンテンツだと思うのが、『CanCam』含め以前の雑誌でよくあった巻末のモノクロ読み物ページです。
-カルチャーネタから占いや投稿、多少下世話なものまでありました。
高田
かつてはそういったページがすごく人気を得て、売れ行きを左右する時代もありました。しかし今や雑誌の『CanCam』でもほとんどやっていません。そういった記事は場所をWebに、『CanCam』の場合は『CanCam.jp』へと変えていきました。
-なるほど、場所が置き換わったというのはしっくりきます。
高田
結局、今も昔も読者はどうやったらモテるか、などリアル体験談に対する興味はあるのですが、ネット上にもタダでたくさんあるようなネタを、わざわざお金を出してまで読みたくはないのだと思っています。「情報の消費の仕方が変わった」ということです。
山野
そうした情報を求める層にアプローチできるのがWebの強みで、そこから『CanCam』というブランドに巻き込んでいくわけです。
雑誌とWeb、異なる編集概念
-『CanCam.jp』の立ち上げについて少しご説明いただけますか?
高田
まず最初に私がこのメディアを使ってやりたいことを一から考えて、そのすべてを実現するためにはどうしたらいいかを山野さんに相談しました。コンセプト、企画内容、カテゴリー名や見出しの入れ方に至るまで、さまざまな要望をWeb的な観点から見てもらい、こうすべきという指摘をもらって最適化をしていきました。
山野
特に、サイト設計のお作法的な部分を指摘しました。たとえば、HTMLの構造に問題はないか、とか、高田さんが話したコンセプトがきちんとUIに反映されているか、とか。しかしそれよりも重要なのは、雑誌とWebの編集の考え方が根本的に異なるということ。雑誌は特定のターゲットに対して、読者の知らないことを提案することに価値を置き、コンテンツをつくってきました。でも、Webは逆です。たとえば、知らないこと、言葉になっていないことは検索されない。なんとなく気になるワードがあり、それに関わる不明点やもっと深く知りたいという欲求に応える情報を載せなくてはダメ。雑誌と比較すると「受け身」なメディアのように思います。
-逆向きの思考に切り替えるのはすぐには難しそうです。
高田
発売される数か月先の未来に、読者はこれを知りたいはずだと予測して提案していくのが雑誌です。雑誌編集者には、確かにまだそうした思考の癖がついています。
山野
私が最初に行ったのは、そうした雑誌とWebの前提の違いを示すことです。そもそもつくるコンテンツの種類が違うし、読者のモチベーションも違うから頭を切り替えて欲しいと言いました。雑誌の編集者にとっては、なかなか発想の転換をしづらいことだと思いますが。
ニーズに応えること、期待を裏切らないこと
-なるほど。そうした難しさを超えて、読者のモチベーションが違うメディアで、双方向からカバーしあうということですね。先ほど阿部さんから、広告も読者と新しい接点をつくろうとしているとお話がありました。
阿部
いちばんわかりやすい例は、「CanCamナイトプール」というイベントですね。2015年に『CanCam』誌上で、当時はまだブームにまではなっていなかったナイトプールを取り上げていました。その時点で「かわいい写真を撮りたい。撮るための場所や装置が欲しい」というユーザーニーズは得ていました。ニーズを叶える場所としてナイトプールがおもしろいと思った前編集長のアイデアで、プリンスホテルとイベントをはじめることに。そして2年目の2017年からかなり話題になっていきました。
高田
「インスタ映え」という言葉が流行語大賞になりましたが、これは「CanCamナイトプール」の写真をSNSで拡散してくれた、「CanCam it girl」というインフルエンサーの読者グループが考えた言葉です。自分が本当にいいと思ったものだけをアップする、本音を届けるインフルエンサーたちによる受賞は、『CanCam』というブランドが、ひとつのムーブメント、大きな消費の塊を生み出せることを証明する出来事でした。
阿部
「CanCamナイトプール」では、さまざまなクライアントに新しいやり方で参加してもらいました。たとえば化粧品であればリップの形のフロートをオリジナルで制作するなど、その企業、商品のイメージに繋がるものを「CanCamナイトプール」の世界観に合う形で落とし込みました。フロートの写真をみんながSNSにアップすることで、その商品のPRに繋げていきました。ナイトプール来場者に楽しんでもらい、商品もSNSで拡散されるというWIN-WINな流れをつくることができたいい事例です。
-読者・ユーザーも、クライアントもお互いメディアに求めるものが変わってきているのですね。
阿部
そうして多角的に『CanCam』のブランド価値を高めた結果、単なる広告出稿だけではなく、「一緒に取り組みができませんか」とクライアントから話がくる機会も増えました。また先ほどの「CanCam it girl」のように、消費者でもある彼女たちのリアルな声を通して情報を拡散して欲しいと考える企業も増えています。
高田
ステルスマーケティング的なPR戦略ではなく、it girlの皆さんには自分が本当にいいと思ったこと・ものだけを記事でアップしてもらうようにしています。誌面もWebの記事も、そのひとつひとつが読者・ユーザーを裏切らないということをいちばん大切にしていきたいのです。