03.新生『CanCam』が目指す場所

読者・ユーザー、ひとりひとりが主役

-「CanCamナイトプール」は、読者にとって観覧型の施策ではなく、自身が参加して楽しむ体験型のイベントですね。

高田

世の中では、読者が観客としてショーを見るだけのファッションショーなどもたくさん行われています。一方で私たちは、多くのユーザーの意見を聞き、参加者、出演者として楽しんでもらうためにはどうしたらいいかを考え抜きました。先ほど誌面づくりでお話しした「読者・ユーザーファースト」と同じ思想です。

阿部

ナイトプールの主役は、雑誌『CanCam』でも「CanCamモデル」でもなく、会場に設置されたフォトブースに立って自撮りをするお客さん自身でした。

高田

いい話になってきましたね(笑)。マスメディアとしての雑誌が世の中に大きなブームを起こせるような時代は、提案力の強さや波及力の大きさが重要でした。しかし私たちは「読者やユーザー、ひとりひとりが主役」という、今の時代の流れや気分に寄り添ったアプローチをとるべきだと考えています。読者やユーザーが自ら主役となって遊んでもらえる開かれた場所を提供することも含め、『CanCam』というブランドの姿勢を皆さんに伝えていけたらと思います。

-『CanCam』がずっと受け継いできた「読者ファースト」という雑誌の編集方針が、SNSの普及などを背景に、「読者やユーザーが主役」というブランドの考えへと発展していったのですね。

高田

そうですね。加えて、自分たちで『CanCam』らしさを決めつけた瞬間に、ブランドとしての価値が下がっていくとも思っています。常に時代は進み、読者は入れ替わっているわけで、彼女たちのニーズや気持ちに寄り添い続けることが、『CanCam』のブランド価値を高めていくことに繋がると信じています。

編集者にとって大事な仕事

-読者層である女性たちのニーズをすくい上げるための具体的な方法はありますか?

高田

あらゆるチャネル(手段)を使いリアルな声を集めています。まずアンケートはがきと、その統計データ。そして読者を呼んで意見を伺う読者会も行っています。読者からの反応に限らず、TwitterやインスタグラムなどSNS上のコメントもチェックしますし、読者以外でこの人に読んで欲しい、話を聞いてみたいという人がいれば、編集者自ら会いに行き話を伺います。また、読者と同世代のライターとの雑談も情報源になります。こうして普段から広くニーズを集め、月1回編集部内で共有しています。

-もはやマーケティングですね。それらもすべて編集者の仕事なのですか?

高田

むしろそれこそが編集者の役割です。読者もしくは潜在的読者の話を聞いて、求めているものを知ること、これがいちばんの仕事だといえます。大切なのは、そうして得た断片的な情報を編集者の中でデータ化していくこと。点の情報を線に繋げて企画テーマをつくり上げ、誌面にしていくのです。

『CanCam』
『CanCam』
「自分たちで『CanCam』らしさを決めつけないことが重要。女子はみんなピンク好き、『CanCam』=ピンクといった考えを一度やめたいと思っています」(高田)。高田がブランド室長に就任して以降の『CanCam』の表紙では、ロゴの色も赤やピンクでなくシックな色調に。常に移り変わる時代の気分を逃さず、読者のニーズに寄り添い続けるための最適解を出していく。
誌面
ファッションの趣味趣向が細分化されて、以前のようにひとつのファッションスタイルで自分を〇〇系と一括りにすることのない読者に対して、さまざまな系統のコーディネイトとそれに合わせたページデザインで、多種多様な女性読者のニーズに応える誌面づくりをしている。

-読者たちの気分や隠れたニーズをさぐっていくのですね。

阿部

たとえばナイトプールに行ったことのない人が多い状況で、「ナイトプールは好きですか?」のような聞き方をしたら、大体「いえ、行ったことありません」のような答えが返ってきて、「ニーズはありませんでした」で話は終わってしまいます。行ったことがないわけですから、いいも悪いもそこから先の意見が出てこないのは当たり前です。

-下手するとナイトプールという企画自体が生まれなかったかもしれない。

阿部

でも、ターゲットとなるのは、そうしたナイトプールの魅力をまだ知らない人。そんな人たちを動かすための策を講じる必要があるのです。

高田

だからこそ、普段からなるべく多くのニーズをキャッチアップしておくことを大切にしています。特にイエス・ノーの回答では浮かび上がってこないような意見に耳を傾けるべきです。とりとめのない会話の中での何気ないひと言や、日常的なエピソードの中から出てきた実感のある言葉、彼女たちのリアルな声こそ、新しい宝の山になりえるのです。「CanCamナイトプール」は、夜にプールを楽しみたい、インスタでかわいい写真をアップしたい、それぞれ別のニーズをマッチングさせたことで、大きな化学変化が生まれた成功事例です。隠れたニーズを根気よく、丁寧にさぐっていった先にヒットがあるのです。