02.図鑑の個性と寿命

小学館の図鑑ならではのよさとは

-NEOの、図鑑としての特徴は何ですか?

「3歳から小学校高学年まで、長く使える本格図鑑である」ということではないでしょうか。
私はその点を特に意識して編集しています。また、『植物』『昆虫』といった基本の図鑑から、『野菜と果物』『イモムシとケムシ』といった変わった切り口の図鑑まで、幅広く扱っていることも特徴のひとつです。

島田

NEOの人気のもうひとつの理由は、なんと言っても「ドラえもんのDVD」が付いていることですね。

それはありますね。DVDがあれば、まだ字が読めない子どもたちでも、映像と音で楽しみながら自然科学を学べます。NEOは対象年齢を3歳からとしていますけど、内容的に難しい点もあるので、DVDを入り口に徐々に本に入ってきてもらいたいですね。

2014年に登場した、ドラえもんのDVDつきNEO。海外のBBCやナショナルジオグラフィックなどの貴重な映像や、編集部が撮りおろした自然科学の映像の世界を、ドラえもんとのび太がナビゲートしてくれる。
イメージキャラクターである芦田愛菜さんは、6歳の誕生日にNEO『人間』をプレゼントされて以来NEOの大ファン。「愛菜ちゃんのように育ってほしい」と子に願う親には、抜群の訴求力がある。
ポスター・販売台・POP・パネル・購入者特典シールなどの宣伝物。

-テーマや編集の切り口、DVDなど子どもたちへのさまざまなアプローチがありますね。

島田

一昨年(2017年)来、小学生の頃からNEOを全巻愛読してくださっていた芦田愛菜さんに、イメージキャラクターとして登場していただきました。テレビCMを「愛菜ちゃんバージョン」「ドラえもんバージョン」と訴求対象を分けて2種類を製作。親御さん向けには「愛菜ちゃん」。そしてお子さん向けには「ドラえもん」です!

坂野

あまり知られていないことですが、NEOのために小学館でオリジナルの紙を開発して使用していることも大きな特徴です。

-オリジナルなのですね! それはどういった観点からオリジナルが求められたのでしょうか。

坂野

細かい文字がページ全体に偏在しているので、光の反射が強いと読みづらい。可読性をよくするために白地の光沢を抑えるようにするのですが、そうすると今度は写真の仕上がりが悪くなる。白地を読みやすく、写真もきちんと光沢を出すというコントラストをポイントにしています。

-文字と図版の量がどちらも多い図鑑だからこそのポイントですね。

インキの乗りや微妙な光沢の差などが読みやすさや写真の印象の強さ・美しさに影響を与える。子どもたちの原体験をつくるビジュアルブック=図鑑にとって、制作の仕事は重要な役割を担っている。見やすさ、読みやすさ、開きやすさ、軽さなど、さまざまな工夫が1冊に集積している。

坂野

しかも最近、紙の製造工場の切り替えがあり、そのタイミングでさらなる改良も施しました。白地をよりマットに、墨の締まりをよくし、写真はよりエッジが立つように改善しています。より読みやすく、色の再現性の高い紙になっていると思います。あと、子どもたちがめくりやすいように厚いけれど柔らかい紙にしています。繰り返し読みたくなるような1冊にしたい、という思いから、紙自体の色味も、冷たい感じにならないよう青みをおさえて温かみを出しています。

-紙の面でも、子どもたちが繰り返し見るためにたくさんの工夫や配慮が施されているのは驚きでした。

坂野

いまお話ししたような複合的、総合的なイメージに対して、既存の紙では対応しきれませんでした。そのため、オリジナルをつくることでこうしたイメージを全面的に実現したのです。

いい図鑑は何が違うのだろう?

-図鑑に関わるみなさんにとって、いい図鑑とはどんなものなのでしょうか。

坂野

制作の立場では、印刷で編集者が意図した色の再現がきちっとできていること。そして、小さな子どもも扱うものなので、できるだけ軽くて壊れにくいものがいい図鑑だと思います。NEOは本がバラけないように度々改良を施していて、本の背をまとめている「背紙(せがみ)」という紙を変えて強度を上げました。1日でも長くもって欲しいと思って、日々研究です。

島田

「3歳から小学校高学年まで長く使える図鑑」という編集方針を、前面に打ち出して宣伝します。間違いなく「『小学館の図鑑NEO』がいちばんいい図鑑である!」 という思いで、いかに優れているのかを伝えています。また、芦田愛菜さんを起用したことで、愛読者を増やすことができたと思います。

-宣伝するうえで対象に愛情をもって接することは大事ですね。

2002年に発行された『動物』を、2014年、新版にしました。その理由は、遺伝子の研究が急速に進み、哺乳類がどのように進化してきたかがわかってきたため。たとえば、陸上を歩くウシのなかまであるカバと、海を泳ぐクジラが親戚である、というのです。新しい分類を採用すると、紙面構成がガラッと変わるので、新版にすべきだろうと。

島田

「新発見!」「新情報!」というフレーズも宣伝する要素としては重要ですね。書店さんにも読者にもわかるように、どこが新しくなったのか、具体的に説明しています。昔買ってくださった図鑑と見比べていただけるように目を引く表現方法(アオリ)を考えます。

見えないところにこそ本の寿命を伸ばすための工夫が施される。プロダクトとしての耐久性、愛読書として長く子どもたちの側に居続けるための「丈夫な体」が図鑑には求められる。
新版『動物』の中面。学問の進歩とともに同じ歩みで図鑑も変わり続ける。現時点の情報を正確に伝える編集者の責任は重大。