小学館 RECRUIT 2021

ファッション誌×コミック誌 ヒット編集者クロストーク 「出版デジタル新時代」のキーワードは“バズり”と“つながり”!

  • デジタル写真集『ボイメンX』担当

    安井 亜由子Ayuko Yasui

    Oggi ブランド室

  • コミック『恋と弾丸』担当

    森原 早苗Sanae Morihara

    Cheese!

  • ボイメンXテン

    東海エリアを中心に爆発的な人気を誇る男性エンターテイメント集団『BOYS AND MEN』の初のデジタル写真集。2018年2月に配信され、メンバーそれぞれの個人写真集とトータルで10,000ダウンロード超えを記録するなどデジタル写真集としては異例のヒットに。その後「紙でも見たい!」というリクエストに応え、受注生産の「オンデマンド本」としての販売も行った。

  • 恋と弾丸

    箕野希望著。女子大生・ユリはパーティで違法ドラッグ漬けにさせられそうになったところを、桜夜組の若頭・桜夜才臣に救われる。「深入りしてはいけない」と思いながらも、二人は惹かれ合い、「史上最高に危険な恋」に身を投じていく――。増刊『プレミアCheese!』2018年4号で連載がスタートし、同年9月より配信開始した電子版で人気が爆発。現在、総ダウンロード数は630万、コミックスは80万部。既刊4巻。

Introduction

電子書籍元年といわれた2010年から10年。単なる本や雑誌の電子化のみならず、「デジタルファースト」のコンテンツが数多く作られるようになりました。と同時に、デジタルを活用してヒットへとつなげる作品も。デジタル写真集『ボイメンX』と、電子配信で人気に火がついたコミック『恋と弾丸』。これらの話題作を担当した2人が、自らの編集術を明かします!

とにかく「バズる!」が鉄則

デジタル化の波をどう感じていますか?

今から3年前、小学館のファッション誌の各「編集部」は、「ブランド室」へと組織変更をしました。紙の雑誌を作るのはもちろん、WebサイトやSNS、リアルイベントなどで幅広く読者と接点をもとうと。そして、『CanCam』『Oggi』といったブランドを生かしたビジネスを、多角的に行っていこうというのが目的です。
以前はデジタルやWebというと、紙の本誌を読んでもらうための入り口のように捉えていました。《続きは本誌で!》と誘引したりもしていましたね。ですが最近は「ターゲットが違う」という前提で記事作りをしています。『CanCam』は「20代の女性のいま」がテーマで読者も20代が多いのに対し、Webサイト『CanCam.jp』は10代から50代までとユーザーの年代が様々。本誌ではあまりやらない、攻めた恋愛の記事などもWebだとアクセスが多いので、そういった幅広いニーズに応えるようにしています。

『CanCam.jp』は、月間のユニークユーザーが900万、ページビューは3000万を越える。
ファッションやトレンドに限らず、多彩なページが並ぶ。

まんがの世界でも、デジタルが身近になってきたことで大きな変化がありました。それは、こちらから読者に積極的にアプローチできるようになったこと。SNS投稿やデジタルバナーは、読者になってくれる可能性のある方々に、ダイレクトに表示することができるので。今や「どれだけネット上でバズるか」が人気の指針になっていますね。

たしかに、どんなにいい記事・作品でも、バズらないと売上に結びつきません。特に今は、話題のものに人が集まるのが顕著。だから、どこに“着火”させるのか、という狙い目を常に探しています。質の高いものを作り、それをしっかり読者に訴えて、届けて、読んでもらうという流れを、点ではなく線で考えるようにしています。その分、編集者の仕事の幅も広がって大変ですが、同時におもしろさも増していると思います。

私は紙媒体も含め販売や宣伝、デジタルの部署の社員たちとの戦略会議を、こちらから依頼して頻繁に行っています。私はまんが編集のプロではありますが、販売戦略を立てたり、プロモーションすることに関しては素人。それを助けてくれるのが社内のプロたちです。各部署とのつながりがヒットの秘訣だと思います。

デジタルだからこそできる挑戦

電子書籍や雑誌のデジタル配信が始まった頃は、「紙をそのまま電子化」というのが基本でした。当然内容はまったく一緒。ですが次第に、デジタルのオリジナルコンテンツが求められるようになってきました。一方で、デジタル用にイチからすべての記事を作ろうとすれば、コストも時間も労力もかかります。そういった意味で、私が担当したデジタル写真集『ボイメンX』は、そんな悩みをくぐり抜けてヒットに結びつけたものでした。
『BOYS AND MEN』(以下、ボイメン)は、東海エリアを中心に活動している男性エンターテイメントグループです。ボイメンが初めて『CanCam』の誌面に大きく登場したのは2016年。誌面に登場していただくたびに、読者の反響がよく、徐々にページ数も増えていきました。
ちょうどその頃は、ブランド室として本誌とWebと単行本をうまく連動させた企画が何かできないか、と模索していたときで、デジタル事業局の社員から「みんなのPCの中で眠っている写真を活用したら?」と、デジタル写真集の提案があったんです。
ファッション誌の撮影は、誌面で使う1カットのために、100カット撮るのは当たり前。毎回、スペースの都合でどうしても載せられなかった「とてもいい写真」がたくさんあります。そんな “お宝写真”を、一冊にまとめてデジタル写真集として発売しよう、という流れの中で、SNSとの親和性も高かったボイメンの写真集にしよう!となりました。

『CanCam』2018年4月号(左)に掲載された特集の“アザ-カット”が、『ボイメンX』(右)に収録された。
各メンバーの個人写真集も、のちに“紙の写真集”に!
「やればやっただけ結果につながるわけではないので、試行錯誤ばかりしています」(安井)

紙の写真集だと、制作や流通コストなど越えなければいけないハードルがいくつもあります。でもデジタル写真集には、そういった制約が少ない。なのでボイメンの場合、全員が揃ったグループとしての1冊の他に、メンバーそれぞれのソロ写真集も作ることができました。結果的にこれが予想外の反響を呼んで、メンバーのソロ写真集を複数買いしてくれた読者もたくさんいました。ボイメンのファンには、「グループ全体が好き」という“箱推し”ファンの方が多かったのも理由でしょうね。

デジタルだからこそ人気が出るというのは、まんがの世界にもあるのでしょうか?

私が担当する『恋と弾丸』は、まさにデジタルから話題になりました。もともとは『Cheese!』の増刊の『プレミアCheese!』で2018年の春に連載がスタートした作品です。デジタル配信を始めたのはその年の秋でした。『恋と弾丸』はヒロインがヤクザの男性と恋に落ちる物語。そのため「危険」とか「激情」といったキーワードを、電子書店やSNSでのプロモーションに織り込んで、「アウトロー」な男性まんがキャラへの憧れ、萌えがある読者の心に刺さるよう、強く意識しました。

デジタルでヒットを狙う方法には、2通りあると思っています。ひとつは、キャッチーだったり検索に引っかかりやすい言葉を使って、読者に見つけてもらいやすいようにすること。もうひとつは、刺さりそうな読者がいるところに投げるという方法です。ボイメンのデジタル写真集は後者で、今いるファンの方たちに向けて作りました。でも『恋と弾丸』はその両方を駆使したわけですね。

「そこに読者がいるか」というのは重要なポイントですよね。私は今、10人ほどのまんが家を担当しています。紙の雑誌で連載している人もいれば、デジタルのみという人もいますが、何より作風が十人十色。そういった特性に合わせて、作品の露出先を考えます。小学館が運営するデジタル少女まんが誌『&FLOWER』なのか、はたまたコミックアプリ『マンガワン』で連載すべきか。他社サービスの『マンガ王国』や『コミックシーモア』『LINEまんが』などに委託するという方法もあります。それぞれ仕様や読者・ユーザーの傾向が違うので、まんが家や作品との相性を考えながら判断をしていくわけです。
『恋と弾丸』では、デジタルでの販売方法も工夫したのですが、それが思わぬ効果を生みました。それはページ数についてです。紙の雑誌に載せる時は、1話当たり40~50ページ。それに対してデジタル配信では、移動中などに手軽に読めるという特性を考えて30ページごとに配信しました。もちろんストーリーはぶつ切りになります。でもそれが逆に「続きが気になる!」という読者の欲求を刺激したようで、いくつもの電子書店のランキングで1位を獲得。それをまた宣伝につなげました。盛り上がっているところに人は集まりますから、「皆さん、ここに火がついてますよ~!」って。

実際に掲載された電子書店のPR(左)と、人気の“着火”を促すポスター。

「作り方」の違い

宣伝方法や売り方にまで気を配っているわけですが、そもそも「作り方」にもデジタルならではという点はあるのですか?

誌面作りでいうと、見出しの付け方は違いますね。デジタルのポイントは検索で引っかかるかどうか。だから読者が検索しそうな言葉を意識して見出しをつけます。たとえば、『CanCam』本誌では《HELLO THE SPRING TREND!》とタイトルを打った特集を、デジタル配信する際には《春のトレンドはコレ!》に変えました。英単語のままか、「春」「トレンド」と日本語にするかによって、検索される数はかなり違いますからね。

まんがで意識しているのはコマ割りです。デジタルは1ページごとや1コマごとの表示になるため、斜めのコマ割りや、コマとコマをまたぐようにキャラクターや吹き出しを置くことを極力やめてもらいました。見開き2ページを使ってドン!と大きく見せるシーンも、以前より減ったように思います。もちろん、物語の展開上効果的だと思えば見開きを使いますが、今の時代はデジタルで読みやすいことが非常に重要です。

四角いコマ割りばかりになって、画一的になってしまう心配はありませんか?

それが、やってみて痛感したのは、スクエアはやっぱり読みやすいということ。デジタルの場合に限らず、まんが作りの「基本のキ」だったんです。

なるほどー。あと、とにかく特典=付加価値ですよね。電子書店ごとに特典を分けたりすることもあります。ボイメンの写真集は、そもそも「本誌に掲載されなかったお宝カットが見られる!」という価値がありました。その後ファンからの熱烈な要望に応えて紙の写真集としても発売しましたが、そこにはさらにメンバー同士で撮ったオフショットやインタビューを追加して、デジタルで買ってくれた人も欲しくなるような1冊にしました。

特典の需要は間違いなくありますね。カラーイラストをつけたり、描き下ろしの4コマまんがを載せてみたりもしています。以前、配信版のためだけに、まんが家に全話次回予告を描いてもらったこともありました。特典イラストの意味合いもあるし、読者の方に次回を楽しみにしてもらうこともできる。こうした試行錯誤ができるのもデジタルならではのことですよね。

電子版の校了(最終確認)作業は、紙上で行われている。
「プロモーションの仕方や“どう売るか”まで考えるのが編集者の役割です」(森原)

「やりたいことがなんでもできる」時代に求める人材

そもそも、出版社で働きたいと思った理由はなんでしたか?

うわーっ、ホント言いたくない(笑)。志望動機はすごくミーハーで、「有名人にたくさん会えそう」と。普通なら会えない人に会えたり、できないことができるチャンスが多そうだったのが出版社であり、小学館でした。
それから、私は仕事と私生活を分けたくなかったので、自分が興味あることの延長線上で、女性のライフスタイルを少し豊かにするお手伝いができるような仕事がしたいと思っていました。ファッション誌の仕事はまさにそれで、みんなが楽しくなるし自分も楽しめます。

私はとにかくまんがが好きだったからです。小学校低学年の頃から読み始め、メジャーなものから同人誌まで読み漁ってました。一度別の会社に入社したものの、それでもまんがの編集をやりたいという気持ちは消えませんでした。それに、総合出版社なら自分のライフステージに合わせて業務を変えていけるとも思っています。今は少女まんがの部署ですが、年を重ねて「自分と同世代の読者に向けたまんがに携わりたい!」と感じたら、より大人の女性向けまんがの部署があります。仮にまったく異なるジャンルに興味が湧いたら、別の仕事のフィールドもある。それが総合出版社の魅力の1つだと思っています。

それでは、デジタル変革が著しい今、どんな人に小学館の扉を叩いてもらいたいですか?

必ずしも「紙の本や雑誌が好き」という人でなくてもいいと思います。もちろん、好きにこしたことはないですが。コンテンツを表に出す“場”はさらに多様化していくので、「どんな形でもいいからおもしろいことをやりたい! コンテンツを作りたい!」という方が入ってきてくれると嬉しいです。
それから、この先はオタクのような「何か熱中するものがある人」が強い時代だと思うので、ハマっているものがあったり、それをおもしろがれる人と一緒に働きたいですね。といいつつ、ファッション誌という特性上、何に対してもミーハーであってほしいとも思いますけど。とにかく、受け身より攻める姿勢がある人のほうが楽しめる会社なのは確かです。

小学館には何かにチャレンジする機会、ヒットを生み出せるチャンスがとても多くあります。部署は多岐にわたっていて、宣伝、販売、制作、広告、編集、その他にもたくさんのプロがいます。加えて、書店や映像関係、メーカーなど各所からの信頼も厚い。そういうベースがあるからこそ、やりたいことがなんでもできるんだと実感しています。こんな状況を「ラッキー♪」と捉えて、元気に楽しめる人にぜひ挑戦してもらいたいですね。

安井 亜由子Ayuko Yasui
Oggi ブランド室
2004年入社。『CanCam』に配属され、以降ファッション誌一筋。ファッションページはもちろん、人物インタビューなどのエンタメ特集も担当している。19年より現職。人生で初めてデジタルデバイスに触れたのは高校生のときに持ったPHS。大学生のときに『mixi』が流行しWebの世界のおもしろさを知る。
森原 早苗Sanae Morihara
Cheese!
アニメ・コミックなどの関連商品企画・販売会社を経て、2013年に入社。紙・デジタル問わずまんが編集をしながら、マーベルヒーローのシールブックを作るなど幅広く担当。人生で初めてデジタルデバイスに触れたのはパソコンで、小学生時代。中学に上がる頃には、ネットでハリウッド俳優の画像収集をしたり、ホームページ作りをしたりと、趣味として熱中するように。