小学館 RECRUIT 2021

小学館の「知と学びのインフラ」を支える 辞書 美術書 学習まんが 編集者のプライド 「学ぶ楽しさ」の土壌を作る!

Introduction

小学館は1922年に設立されました。初めに創刊したのは学年別学習雑誌。以来約100年、一貫して「教育」「学び」「教養」という視点から、さまざまな「知」を提供してきました。それらは今では“小学館ブランド”を語る上で外せない“強み”となっています。そこで「辞書」「学習まんが」「美術書」という異なるアプローチから、「知と学びのインフラ」を支える編集者たちに話を聞きました。

読者の知識欲をくすぐる本作り

具体的に、どのような業務を担当していますか?

大野

国語辞典や外国語辞典を作る辞書編集部に所属しています。『大辞泉』や『例解学習国語辞典』、『プログレッシブ 小学英和・和英辞典』などが代表的ですが、“小学館と辞書”を語る上で外せないのが『日本国語大辞典』です。初版は1970年代に作られ、現在の第二版は2000年代はじめに発売。全13巻+別巻1冊というスケールです。40年以上の時間をかけて、3000人以上におよぶ識者が携わって作られたもので、研究者などが論拠にする「日本でいちばん大きい辞典」です。

田伏

『日本国語大辞典』には、私も大学院時代にお世話になりました。通称“ニッコク”ですね。

大野

はい。でも「“ニッコク”って略すのはけしからん!」という愛読者の方もいるほどです。簡単に略していいほどの代物じゃない、と。それだけ辞典としての価値を認められた存在です。
そんな部署で私が手がけたのは、幼稚園児から小学校低学年向けの『ドラえもん はじめての国語辞典』です。きっかけは、「辞典を持っていても、実際に言葉を調べたりする子どもは少ない」という一般の方の意見を聞いたから。そこで、もっと辞典に親しみをもってもらいたいという思いからスタートしました。ですから「勉強が苦手な子のためのものです」と言い切っています。
この辞典の作り方は、それまでの常識とは正反対。辞典って、少ないスペースにいかに文字を詰め込むかが重要とされていますが、それだと子どもはやる気をなくしてしまいます。だから、あえて文字のない白い部分を多く残して、子どもたちが「これなら読めるかも!」と感じられるようにしています。これは、もともとまんがの部署にいて「セリフを短くしろ」と耳が痛くなるほど言われてきたから思い至ったアイデアかもしれません。さまざまな本作りを経験できる小学館ならでは、ですね。

“ニッコク”は、日本で唯一の大型国語辞典と言われる。
『ドラえもん はじめての国語辞典』(上)と、もとになった『学習国語新辞典』。掲載内容は同じだが、フォントの違いは一目瞭然。
磯貝

私がいる文化事業局は、美術関連の単行本を作る部署です。今準備を進めているのは、浮世絵に関する3種類の書籍。2020年のオリンピック開催で海外から訪れる多くの観光客に向け、日本のポップカルチャーの浮世絵を通じて日本文化を伝えるというプロジェクト『UKIYO-E2020』に合わせたものです。初心者向けの入門書、中級者向けの浮世絵名作100選、そして浮世絵フリークのために浮世絵の歴史すべてを網羅した数百ページにもなる大型本の3種類。同じ浮世絵を題材にしても、読者の元々の知識などに違いがあるので、どの程度記述すべきか判断に迷う難しさはありますね。入門編に難しいことが載っていると「わからない!」となりますし、逆に上級編が基本的なことばかりで埋まっていると「知ってるよ!」となります。読者の知識欲をちょうどよくくすぐる本作りを意識しています。

大野

単行本の企画は、そういったイベントのタイミングなどを見計らって考えるものですか?

磯貝

作家や画家、芸術家の生誕●年や、没後●年というタイミングは意識します。ちなみに、生誕より没後の節目の年のほうが、より重視されるんですよ。生誕だと、まだその芸術家の評価が定まっていない期間の人生も含まれているからというのが理由だそうです。

田伏

私は児童学習局の、「学習まんが・百科」というセクションにいます。扱っているコンテンツは、『小学館版 学習まんが 少年少女日本の歴史』や『小学館版 学習まんが 世界の歴史』、『日本史探偵コナン』シリーズ、『小学館版 学習まんが人物館』シリーズなどです。『日本の歴史』は累計2020万部、『人物館』は累計310万部以上を数えます。一方、「学習」という切り口と結びつけて、NHKの『チコちゃんに叱られる!』の書籍化なども手がけました。シリーズものはもちろん、新しい企画の開発にも積極的に取り組んでいます。
私個人の仕事としては、2019年の夏に『人物館』で安藤百福(インスタントラーメンの生みの親で、日清食品の創業者)を取り上げました。百福さんの人生やインスタントラーメンの誕生秘話を描いていくわけですが、単に事実を時系列でなぞるだけではおもしろくありません。なにかひとつフックが必要です。そこで目をつけたのが、百福さんが数多く残した強いメッセージ性のある言葉です。例えば「人生に遅すぎるということはない」「転んでもタダでは起きるな」などが有名です。読む人に勇気を与えるようなパワーワードを物語の要所要所にしっかり盛り込み、この物語を読んだ人が人生を前向きに生きられるような見せ方を意識しました。人生哲学、人間哲学とでも言えばいいのでしょうか。単にモノゴトを楽しくわかりやすく紹介するだけでなく、「いかに生きるか」を感じ取ってもらうのが本当の学習まんがだと思っています。

大野

自分ならではの工夫を加えられるのがこの仕事の醍醐味ですよね。『ドラえもん はじめての国語辞典』は、とにかく“ページをめくる楽しみ”を味わってもらいたいという思いがありました。オールカラーにしてイラストをたくさん入れましたし、コラムにもこだわりました。焼き肉の項目に、牛のイラストと一緒に部位の名前を入れたり。子どもたちの身近な言葉にコラムがあれば、興味をもって読んでもらえるのではないかと思ったので。
また、書体も吟味しました。子ども向けの辞典だと「とめはね」がしっかり表現されるアンチック体や、太さがあって見出しが目立つゴシック体を使うのが主流です。しかしこの辞典では、より丸みのある書体を採用。ドラえもんというキャラクターのイメージに加え、子どもが「簡単そうだ」という印象をもてるようにしました。

磯貝

美術書の場合は、とにかく写真が鮮明に印刷されているかにこだわります。書籍ごとに、印刷会社のプリンティングディレクター(印刷設計)の方が担当につき、特に「色」が正しく美しく描き出されているかを確認します。また、編集者が工場での印刷工程に立ち会ってチェックもします。紙へのこだわりも強く、浮世絵の本のためだけに作られた『小学館浮世絵用紙』という紙があるほどです。今準備を進めている3冊は、もちろんその浮世絵用紙で作ります。
ただ、どんなに綺麗に表現する技術があっても、実物がどんな色をしているかを知らないと意味がありません。ですから、本物を自分の目で見て理解しておくことは重要です。美術館や展覧会に頻繁に足を運ぶのは当然ですし、細部を確認するために単眼鏡は常に持っています。何かの機会に作品を間近で見て触れることになるかもしれないので、マスクと手袋もマストアイテムです。

『小学館版 学習まんが人物館』シリーズの刊行は1996年から続いている。
美術書編集者必携の3点セット。
磯貝が編集を担当した写真集『永遠のソール・ライター』。試し刷りには、微細な色味の調整にまで指示が入る。

「小学館の出版物なんだから、間違いはない」
という信頼に応えるために

仕事をするうえで、日々、どのようなことを意識していますか。

大野

子どもは好奇心が強いし、学びたい、知りたいという欲が大きいですよね。漢字を書いてみたがるし、何かを知る、何かができるという喜びを素直に感じ取っています。だから、単なる情報を羅列しただけの出版物ではなく、知識を得ることの気持ちよさを知って欲しいと思っています。その橋渡しをして「学ぶ楽しさ」の土壌を作ることが、小学館の使命だと感じています。
そして、小学館の本から得ることになる知識には、やはり“間違いがあってはいけない”と常に意識しています。そのため校正作業も繰り返し行います。一般的に、出版物は試し刷り(校正刷り)を初校・再校と2回チェックするものですが、辞典の場合には5~6回行うことも。他の編集部では見かけない「五校」のハンコがありますよ。

田伏

学習まんがにも同じことが言えます。文章のみの場合にはふわっとしたイメージでいい場合もありますが、まんがは「絵」にしなければならないのでごまかしがきかない。例えば『世界の歴史』第1巻には、有名なエジプトの「クフ王のピラミッド」が登場します。ピラミッドといえば、砂漠の真ん中にあって、三角形で茶色っぽい色をした建造物をイメージしますよね。でも、クフ王のピラミッドは、実は建てられた当時は色が違いました。真っ白な石灰岩で表面が覆われていて、太陽の光が反射して神々しく光り輝いていたのです。それが王の権威の象徴だったわけです。当然、ピラミッドが完成した当時をまんがにするとなると、白く輝くクフ王のピラミッドを描かないと、うそになります。第4巻に登場する中国の「万里の長城」についても、現在よく目にする建造物は明時代のもので、秦の始皇帝の時代のものは、姿形も位置も違う。学習まんがだからこそ、時代考証を厳しくしなければならないと思っています。

幾重にも及ぶ確認作業によって、辞書作りは成り立っている。校正作業を繰り返すごとに、試し刷りに押されるハンコの数字が増えていく。
歴史教科書で有名な山川出版社の編集協力を得て誕生した『小学館版 学習まんが 世界の歴史』。
『小学館版 学習まんが 世界の歴史』に描かれた「白く輝くピラミッド」(左)と、イメージとは大きく異なる「“秦時代”の万里の長城」(右)。
磯貝

「どうやって事実確認をするか?」って、かなり難しいですよね。美術作品を取り上げるにあたっては、参考にする資料にも気をつけています。所蔵先の美術館や博物館、文化庁の調査資料を探したり、孫引きにならないよう一次資料にあたったりと、信頼がおけるソースで確認することを心がけています。

大野

そうそう、日々“裏取り”ばかりしています。辞書に掲載するイラストが間違っていないか、博物館に実際に見にいったり。それが職業病にもなっていて、テレビを見ながら「本当かな?」と思って調べ始めたりすることも。意外とあやしい情報だということも多いです。

田伏

“疑う力”が身につきますよね。世間一般では常識だと思われていることでも、「なんでだろう?」「実際どうなんだろう?」となるべく違和感を覚えるクセをつけて、その場で調べてみたり、スマホにメモを残しておいたりします。情報のストックは多いに越したことはありません。「小学館の出版物なのだから、間違いはない」と信頼してくれている読者を裏切らないためにもです。それに、自分自身の「知らなかったこと」が「知っていること」に変わっていくのが快感で、煩雑な確認作業も楽しくなってきます。

編集者は主役ではない

そもそも、なぜ出版社を志望したのですか?

磯貝

私が就職活動をしていた頃はとにかく女性ファッション誌に勢いがあって、「ファッション誌の編集がしたい」というのが志望動機でした。
ただ、実は学生時代は美大で美術史を専攻していました。同級生の多くは学芸員などを目指していたのですが、私はそこまで突き詰められないなという限界を感じていて。であれば、その魅力を伝える側に回るのが自分の役目だと思ったのです。

田伏

私の場合、就活をするにあたって、「自分の傍らに何があると自然なのか」を考えました。いつも持ち歩いているのは、スマホ、財布……そして「本」。あぁ、歴史が好きだしちょうどいいや、ということでまずは出版業界に的を絞りました。さらに会社を選ぶ際に、今までの自分を振り返ってみました。すると、人生で初めて買った雑誌は『コロコロコミック』、子どもの頃から剣道を続けている自分にとって『六三四の剣』というまんがは人生のバイブル、大学の研究で“ニッコク”にお世話になり、在学中に『全集 日本の歴史』が刊行されて感動した。偶然にも、人生のいたるところに小学館の影響があったのです。あ、これはもう小学館しかないなと思いました。

大野

私は大学を卒業後、一度パソコン関連の雑誌を出している出版社に就職しました。その後、当時の第二新卒を対象とした採用で小学館に。理由は2つあって、ひとつは大ファンの田村由美先生のまんが『BASARA』が小学館の作品だったこと。もうひとつは、長い目で考えたときに、小学館は一生働ける会社だと思ったからです。

最後に、就活生に向けて一言お願いします。

磯貝

出版社で働く、あるいは編集者として働く上で大事なことは、謙虚な姿勢だと思っています。編集者は自分がクリエイティブなのではなく、クリエイティブな方々の力を借りて出版物を作っているものだと思うのです。主役ではなく、あくまで橋渡し役。多くの人の力を素直に借りることができる人は、編集という仕事に向いていると思います。

大野

その通りで、編集は多くの人の間に立つ仕事です。執筆者や識者と話し、デザイナーと話し、イラストレーターと話し。だからこそ、人が好きな人がいいと思います。それとなんでもおもしろいと思って飛び込める人ですかね。

田伏

言いたいことを言われちゃいましたね(笑)。何ごとにも楽しさを見つけられて、人が嫌がるような面倒なことでもプラスの方向に意識を変えられるかどうかは、仕事をしていく上で大きなポイントだと思います。“楽しむ力”ですね。さらに言えば、「教育」や「学び」、「教養」に深くかかわる仕事をする上では、読者と一緒になって「知ることに喜びを感じられる」ことも大事な素質だと思います。

大野 美和Miwa Ono
辞書
パソコン関連誌の出版社を経て2002年入社。テレビ情報誌や『プチコミック』などを経験後、2009年より現職。異動当時の感想は「まんがでも誤植をしていた私が、辞典なんて本当にできるの?」
磯貝 晴子Haruko Isogai
文化事業室
2008年入社。学年誌の編集部から『ぷっちぐみ』を経て、2019年より現職。「“仕事”として堂々と美術館に行っていいのは役得だと思っています(笑)。もちろん、しっかり勉強していますよ」
田伏 優治Yuji Tabushi
学習まんが・百科
2012年入社。『女性セブン』『週刊ポスト』、制作局を経て2018年より現職。仕事のお供はインスタントの野菜スープ。「5種類くらい常備していて、気分によって味を変えてリフレッシュします」