畑中 雅美Masami Hatanaka
第一コミック局 Sho-Comi 編集長
- 異動履歴
- 1998年入社/Cheese! > 少女コミック(現Sho-Comi) > Cheese! > 2019年より現職
やりたいことを我慢するのが苦手な性格で、「もう寝なさい」と言われても続きが気になる本があると布団を被り懐中電灯で読み漁るような子ども時代を過ごし、そのせいで1日3時間の短眠体質になってしまうほど。今もなんでもやらせてくれる小学館という会社に甘え、編集長業務はもちろん、本来担当ではない仕事も楽しんでます。
「ダメ」と言われて出すヒットほど楽しい。
入社して最初に担当した作家は、絵が古いと言われて他誌で何年もデビューできなかった方でした。それ以外にも、数々の諸先輩方が担当して10年以上芽が出なかった方など、他の編集者から「ダメ」と言われてしまった方々ばかり。
これはもの凄くラッキーだと思いました。
先輩が上手にやっていた仕事を引き継ぐと、新人の私は当然至らぬことが多いので迷惑をかけてしまうのは必至です。でも、先輩がうまくいかなかった仕事ならば、なにか新しいことを仕掛けるだけで役に立てる可能性が高い。担当することになった作家について、先輩方が短所と捉えている部分を聞き出し、そしてその部分を長所に変換する方法を必死で考えました。たとえば「絵が古い」というのは、現代っぽくないということだから、逆に大正時代などを舞台にすると魅力的に見えるのではないかとか。これがおもしろいようにハマって、先輩が1年以上も没を出し続けた作家の読みきりで人気を取り、単行本が40万部ほど売れたのが私の最初の成功体験です。
それ以来、他の編集者が絶対無理だと言う仕事があると、俄然やる気が沸いてきます。そんなウワサを聞いて、他社で「ダメ」だと言われた作家が投稿してきてくれることも増えました。
私の1日
- 8:00
- 起床。朝ドラを見る
- 9:00
- 朝食ミーティングと称して、仕事仲間であり、もはや友達となったメンバーでおいしいと評判のフレンチトーストを食べに行く
- 11:00
- 信頼のおける筋から「絶対観たほうがいい」と言われた中国映画の試写会へ
- 13:30
- 出社、企画会議。編集部員と連載案について詰める
- 16:30
- 取引先とドラマ化作品の打ち合わせ
- 18:00
- 仕事仲間であり、もはや(以下略)と脱出ゲーム
- 20:00
- 仕事仲間(以下略)と夕食ミーティング
- 23:00
- 人狼大会に参加
- 26:00
- 帰宅、続きの気になる海外ドラマを観まくる
- 28:00
- 就寝
みんなが右に曲がる中、1人で左の道へ行けますか?
就職活動って、考えてみれば理不尽ですよね。学生時代は、みんなと同調する力をある程度求められて、それができる人は「協調性がある」と褒められる。
でもビジネスの世界では、その価値観、逆になるんですよ。みんなと同じことを言う人は「平凡」と呼ばれ、人と違う発想をし業界にイノベーションを起こす「異端」こそが褒められる。就活で、いきなり「個性」を求められるのはこのせいです。これまでの試験とはルールが変わるのです。これをストレスに思う人は、正直編集者には向かないかもしれません。
常に新しい発想・視点を求められる、常識を更新していくのも私たちの仕事です。だから、「みんなと違うことをしていいんだ!」とポジティブに感じる人にとっては、夢のような職場です。なにせ、まんがばっかり読んでいたら仕事熱心だと褒められます。ふざけていると、ユーモアがあると褒められます。
同調圧力に屈しない人、新しいことを受け入れられる、思い込みを捨てられる人にとっては夢の職場だと思います。本当に楽しいですよ。毎日、「大人になってよかったなーっ」て思って生活しています。
なんでもできる、どこまでもできる。
入社以来ずっと少女まんがの部署で働いてきた私ですが、社会学者の古市憲寿さんに『保育園義務教育化』という本を書いていただいたり、川村元気さん脚本の2020年公開『映画ドラえもん のび太の新恐竜』に携わったり、たまに大学で教えたり……少女まんがとは関係のない仕事もたくさんしています。
小学館という会社は、どの部署にいても、企画次第で何でもやらせてくれます。ということは、「やりたくてもできない」という不満は全部自分のせい。他人や上司のせいにできないという別の厳しさもあるのですが、でもいろいろやってみたくなる性格の私にとっては、大きな利点です。そしていろいろやってみるからこそ、私はやっぱり少女まんが、それもラブストーリーが大好きです。
長く編集者をやってきたからか、ここ数年「好きなラブストーリーの担当者が全部あなただったからぜひ会いたい」と海外からアポイントメントを受けることが増えてきました。アメリカ、韓国、中国……いろんな国の人たちと話していて実感するのは、恋する気持ちは万国共通ということ。少女まんがこそ、実は世界標準なんだということです。まだまだ日本向けにしか本格的にはビジネスをしていない少女まんがには凄い未来が拡がっているはずと期待して、自分がその一助になれるんじゃないかとワクワクしています。