SPECIAL TALK 01 大人気プロジェクトに
担当編集者&映像化担当者かく語りき

クロスメディア事業の
最先端

原作、アニメ、実写

「紙の本・雑誌を作る」という『出版』の言葉の定義は大きく変わりつつあります。コンテンツを起点に、テレビや映画、デジタル、さらにグッズやゲームなどさまざまな業界と連携し、メディアの垣根を越えてより大きなビジネスを生み出すことが求められます。
2020年にアニメ化、さらに実写ドラマ・映画化された『映像研には手を出すな!』には、原作者から作品を“預かって”いる出版社ならではのビッグプロジェクトへの関わり方がありました。このブームを仕掛けた3人が、その裏にある「計算」と「偶然」を明かします。

原作:大童澄瞳

アニメーションは「設定が命」と力説するほどアニメ好きな浅草みどり、プロデューサー気質の金森さやか、アニメーター志望のカリスマ読者モデル・水崎ツバメの“電撃3人娘”が映像研を結成し、頭の中の「最強の世界」を表現すべく織りなす冒険譚!
『月刊!スピリッツ』にて連載中。累計発行部数は100万部を突破!

©2020大童澄瞳/小学館

トークメンバー

担当編集

千代田 修平 SHUHEI CHIYODA

第四コミック局
マンガワン事業室
(前所属:ビッグコミックスピリッツ編集部)

アニメ化担当

内山 雄太 YUTA UCHIYAMA

国際メディア事業局
クロスメディア
事業センター

実写化担当

四竈 泰介 TAISUKE SHIKAMA

国際メディア事業局
クロスメディア
事業センター

別々に届いた、「アニメ」と「実写ドラマ・映画」のオファー

内山

内山

2020年の1~3月にアニメ、4月に実写ドラマが放送されました。実写映画は5月公開予定でしたが、新型コロナウイルスの影響で9月公開となりました。当初は年明けから半年間、さまざまな形でメディア展開されることへの期待感も大きかったですね。
でも実は、アニメと実写ドラマ・映画は別々のオファーとして届いたものだったんですよ。映像化の担当者も異なります。

四竈

四竈

内山さんがアニメの担当、私が実写ドラマ・映画の担当です。

内山

内山

アニメのオファーがあったのは2018年です。私自身は途中からこの企画に参加しているのですが、当初から「監督は湯浅政明さんで、放送局はNHKで」という形だったと聞いています。企画段階で監督や放送局、キャスト構想が決まっていることもありますが、そうでない場合もあります。
映像化の依頼が出版社に舞い込んだら、担当編集者を通して原作者に確認します。小学館は原作者である大童先生の作品をお預かりしている立場ですから、勝手に話を進めることはしません。

千代田

千代田

当の大童先生はと言うと、もうノリノリでした。もともとアニメへの造詣が深い方ですし、「湯浅監督ならぜひ!」と快諾をいただきました。むしろ、「原作の形が変わってもいいから、湯浅監督が作る『映像研』を見てみたい」と仰るぐらいでした(笑)。

四竈

四竈

実写化のオファーがあったのは、しばらく後です。珍しかったのは、ドラマと映画がセットだったこと。ドラマがヒットしたから映画化するというパターンはよくあることですが、最初から映画まで仕掛けるというのはそう多くはありません。
こちらも放送局や放送枠、メインキャストを乃木坂46が演じるといった点は企画段階で具体的な構想がある程度固まっていました。

千代田

千代田

大童先生は、実写化をきっかけにコンサートに足を運んだり深夜の出演番組をチェックするくらい乃木坂の大ファンになっています(笑)。実写映画に生徒役で出演もしたりして。実はこっそり私も映り込んでいます。よかったら探してみてください!

編集段階で膨らませる「映像化のイメージ」

千代田

千代田

『映像研』の連載がスタートしたのは、まだ私が入社する前で、まんがファンの間では「すごいまんがが始まったぞ!」ってかなり話題になっていました。まさか、自分が担当編集者になるとは思っていませんでしたし、実際に担当することになったときには本当に嬉しかったですね。
普段の業務でいうと、『映像研』は月刊連載ですから、まずは月に1度の打ち合わせで次話の内容を詰めます。例えば次は映像コンテストを目指すストーリーにしよう、その理由はこんなことにしよう、とか。もっと具体的に、打ち合わせのシーンは“水崎氏の家”でやろう、などあらすじを組み立てます。大童先生の頭の中にあるイメージを聞きながら、私からもいくつか提案や確認をしたりして大枠を固めていきます。
その後の2週間でネーム(ストーリーやコマ割りなど描いたラフ)を完成させます。ざっくりとしたネームに3日間、人物を入れたネームに5日間、さらに詳細な描写を加えたネームを5日ほどというところですね。その都度電話で打ち合わせをしながらネームを完成をさせます。そこから2週間で作画を進めてもらい、最終調整して完成原稿ができあがります。
そしてまた、次話の打ち合わせとなります。このサイクルで毎月進めます。
『映像研』の発明とも言えるのが、セリフのフキダシを斜めにしている技法です。これは大童先生が同人誌を制作している時代からやっていたそうですが、はじめて目にしたときはびっくりしました。セリフが立体的に迫ってくるようでとてもおもしろい。
さらに特殊な擬音や図解が盛り込まれていて、「プロペラスカート」の例のように、ストーリーの最中に突然見開きでその構造の詳細解説が入ります。大童先生のあふれ出る想像力が発揮されていて、この作品のウリでもあります。まんがはパラパラと読むものですが、この図解ページはじっくり隅々まで読みたくなります。メカや設定が好きな人の読書欲をくすぐるページで、大童先生自身も、担当編集者である私もおもしろいと感じているし、読者にも刺さるページだと思っています。

作中に突如はさみ込まれる「構造解説」。

映像化を意識した作品づくりをすることはあるんですか?

千代田

千代田

作品の立ち上げ時に映像化を意識することはあります。
ストーリーでいうとヒロインがいきなり退場するようなまんがは映像化しにくいだろうなとか。設定でいうとファンタジーならばCGばかりで実写は難しいけれども、逆にゲームやアニメならおもしろいだろうとか。キャラ作りでは自分がドラマプロデューサーになったつもりで、こういう配役はどうだろうと想像を膨らませて考えてみることもあります。

四竈

四竈

ファンタジーはアニメに向いていますよね。先日、あるテレビ局のアニメプロデューサーに「なにかいい作品ないですか? ファンタジーで」って聞かれました。

千代田

千代田

本当ですか!? ありますよ、おすすめが! ぜひちょっとこの後に打ち合わせを(笑)。
実写化でいうと、判断ポイントとしては舞台が現代日本かどうかというのはあるんじゃないでしょうか。撮影のハードルの低さというところは重要です。

実際にプロジェクトがスタートしたら、どう関わっていくのでしょうか?

内山

内山

オファーをうけて、映像化の許諾をいただいたら、アニメ制作のスタートです。脚本の確認や絵コンテのチェックなどを行い、どのようなアニメにしていきたいか先生と共に確認を進めていきます。また、今回の場合『製作委員会』が立ち上がりました。製作委員会というのは、映像作品に携わりたい会社が集まってできるもので、だいたい月に1度のペースで各社代表が集まり、進捗の確認、プロモーション、資金面などビジネスの根幹に関わるような話をします。

四竈

四竈

プロモーションに関する議題はよく挙がりますね。小学館なら「放送や公開に合わせてコミックスの帯にキャストの写真を載せて宣伝できます」とか、レコード会社なら「音楽方面からこういった取り組みができます」といった具合です。放送や公開まで3か月を切るころになると、こうした会議は頻繁になり、どんな宣伝展開ができるか、組み合わせや権利関係などをチェックしながら打ち合わせをします。

実際にコミックスの帯で展開された施策。
内山

内山

小学館としても、許諾を出したから終わり、ということはありません。小学館が間に入ることで「原作者と映像作品をスムーズにつないでいく」ことが重要だと思っています。

四竈

四竈

かなり頻繁に担当編集者を通じて大童先生に連絡し、細かい進捗状況から商品化についてなどの確認をしました。ストーリー、キャラの言葉づかいはもちろん、宣伝展開など、ケースバイケースで適切に対応していきます。

千代田

千代田

『映像研』については“大童先生NG”というのはほとんどありませんでした。むしろ、映像化に携わるクリエイターの方たちがどんな作品に仕上げてくれるのか、原作と異なる部分も「おぉ、こう来たか!」と、化学反応を楽しんでいる様子でした。

ただ決してこだわりがないというわけではありません。その1つが、グッズ化した「ウサギのぬいぐるみ」です。あれはもともと大童先生の私物がモデルなんです。子どもの頃にプレゼントされて以来、大事にしているぬいぐるみです。口元のパーツが取れていたりして、原形からだいぶオリジナリティが増したものがモデルになるので、商品化ではそれを完全再現ができるかどうかがポイントでした。これは大変でしたね(苦笑)。耳の長さ、垂れ具合、色味、素材、質感、などなど、グッズ製作を担当した企業の方が持参した素材の見本から先生が選んで、サンプルを4回くらい作り直して、ようやく納得いただけるものに仕上がりました。

大童先生のこだわりがつまった
「ウサギのぬいぐるみ」。
内山

内山

『映像研』関連グッズは120点を超えています。商品化についても、原作の世界観を壊さないよう監修するのも仕事のひとつです。

千代田

千代田

本当に膨大な確認事項があるんですよ。映像の内容そのものについてもそうですし、グッズやプロモーション展開もそう。加えてインタビューの依頼なども舞い込みます。先生への確認は都度行っていきますが、似たような依頼の場合、編集部としての判断で進めることもありました。
そうしないと、先生のスケジュールが逼迫してきます。特に大童先生は話すのが上手で、新聞やテレビ、雑誌、Webメディアのインタビューや対談依頼が多くありました。そういう依頼は先生に確認する際に、「これはできれば受けたい」とか「これは無理しなくてもOK」と添えて相談していました。

出版社だからこそ生み出せる「クリエイター同士の化学反応」

四竈

四竈

出版社として原作者と対話するのは当然ですが、一方でクリエイター同士をつなぐのも私たちの役割です。アニメと実写でオファーのタイミングが異なったという話をしましたが、それぞれ製作委員会があり、2つはまったく別の製作チームです。

内山

内山

そこの連携が起きたのは、珍しいパターンでしたね。それぞれの公式ツイッター同士がリプライし合ったこともありましたし、特に『浅草対談』は盛り上がりました。アニメで浅草氏の声を担当した女優の伊藤沙莉さんと、実写で浅草氏を演じた乃木坂46の齋藤飛鳥さんの対談です。映画の現場で行われ、浅草氏が乗り込む飛行ポッド「カイリー号」のセットに伊藤さんが乗った様子がスピリッツ本誌や各メディアで記事になり、また伊藤さんも自身のSNSに写真を投稿したことでさらに話題になったんです。小学館だからこそつなぐことができた関係性だったと思います。

四竈

四竈

実写化担当として、アニメの製作委員会の会議に出席したこともあります。進捗状況を共有することで、アニメと実写の連携ができたんです。結果的に映画公開は半年延期されましたが、その間にもアニメ関連のグッズ化オファーは届き続けました。この点は予期せぬいい影響でした。

では、大変な部分はどういった点でしょうか?

内山

内山

出版社としての業務と、映像化チームの目指すもの、双方への理解をもっていないといけないことです。ちょっと大げさですが、“文化の違い”のある両者をつなぐ難しさはあると思っています。
私たちは原作者に出版社として向き合いますが、映像研のように製作委員会が組成される場合には、製作側の一員でもあります。普段の仕事のフィールドが異なるからこそ、原作者と映像化チーム双方の想いを誤解なく、スムーズに伝える。その方法には日頃から気をつけています。最近だと映画会社やテレビ局、映像制作会社だけでなく、ネット配信を手掛ける会社もあります。ご一緒させていただく方々との理解を深めていくことは、重要な仕事の1つかなと考えてます。

クロスメディア事業が目指すのは「原作への好影響」

千代田

千代田

原作への影響は大きいです。まずアニメ放送で重版がかかり、続くドラマ、映画でも重版がかかり、1年で圧倒的な伸びを見せました。
読者層が大きく広がったのも、映像化ならではの結果でした。というのも、もともとのファンは青年誌であるスピリッツの読者や、“まんが好き” の方に限られていました。それが普段まんがを読まないような方にもそのおもしろさが届いたたことは嬉しい影響でしたね。

内山

内山

アニメ放送は日曜日の深夜でしたが、SNSで『浅草氏かわいい!』と子どもがつぶやく現象が起きました。わざわざ録画して見てくれていたようなんです。オープニングの評判がよく、その曲に合わせて子どもが踊る動画がSNSにアップされたり。それはすごくほっこりしましたね。それを受けて、NHKから「土曜日の夕方に一挙再放送したい」というリクエストもきました。そこでまたハネて、さらに子どものファンが増えました。

千代田

千代田

編集部にも小学生からファンレターが届いて、感動的でした。『映像研』が掲載されている『月刊!スピリッツ』の読者は30代がメイン。小学生が作品のファンになってくれたのはアニメのおかげです。

内山

内山

出版社として、原作が多くの人に読んでいただけるというのはとても嬉しいことですからね。

四竈

四竈

映像化に関連する仕事をしていますが、常に考えているのは、「それが原作にどう跳ね返ってくるか」です。映像化を通して原作の価値を押し上げることがミッションです。

内山

内山

テレビや映画に加え、ネット配信などクロスメディアの裾野は広がっています。以前より個性のある作品を映像化しやすくなっているという側面もあります。
作品とユーザーの接点が増え、世界中の人に作品を知ってもらえるチャンスがある。その効果が、原作にもっともっと返ってくるよう、この先出版社社員として追い求めていかなくてはいけないと思っています。

最後に、就活生に向けてメッセージをお願いします。

千代田

千代田

他の企業の仕事と比べてまんが編集者という仕事が圧倒的に恵まれている点は2つ。天才と仕事ができることと、社会にめちゃデカいインパクトを与える可能性をもてることです。それも1年目から。ぜひ気合い入れて来てください。

内山

内山

小学館には、きっとあなたが想像しているより幅広い仕事のフィールドが広がっています。
出版社としてのコンテンツメーカーの仕事から、映像化に代表されるクロスメディア展開、書店を巻き込んだ実店舗マーケティングやデジタルマーケティングなど、新旧問わずエンターテインメントにまつわるさまざまな仕事があり、それらを組み合わせてチャレンジできる土壌があります。楽しいことで、世の中をアッ!っと言わせたいと思っている方は、ぜひ小学館を選択肢のひとつとして考えてみてください。

四竈

四竈

出版社には、雑誌や書籍の編集以外にもおもしろい仕事がたくさんあります。
斜陽と言われて久しいですが、古い業界だからこそいま変革の時期を迎え、楽しく働けると思います。自分のやりたいことを見つめ、出版業界も悪くなさそうだと思ったらぜひ小学館を受けてみてください。お待ちしております。

映像研には手を出すな!キービジュアルができるまで

©2020大童澄瞳・小学館/「映像研」製作委員会
©2020「映像研」実写映画化作戦会議 ©2016大童澄瞳/小学館