03.図鑑を届ける相手を考える

研究者が子ども向けのテキストを書くこと

-監修者や執筆者は大学の研究者の方が多いと思います。普段は学術的な難しい言葉で書いている方々が、子ども向けに説明を書くというのは簡単ではないですよね?

文字数を伝えて原稿をお願いするのですが、どの先生もその2~3倍の長さは欲しい、とおっしゃいます。でもページ数には限りがあるので、そうもいきません。中心読者である幼児から小学1年生を想定して、難しすぎず、端折りすぎないよう、どうバランスを取るのか⋯⋯。図や写真の効果も活用しながら、日々悩んでいます。

-まさに編集の仕事ですね。

編集プロダクションと一緒につくる最初の構成台割に、私や監修者の先生が何度も赤字を入れていく作業まででじっくり2年。あとの1年はデザインへと進み、校正者と自分以外の編集部の赤字も反映していきます。それだけの時間をかけると、読みやすさと情報の精度はかなり高まります。

島田

発売1か月前、校了時期の編集部はもう戦場ですよね⋯⋯。同時に宣伝物も校了時期なので、ダミーの画像から最終データに差し替えるために、忙しい編集部に矢のような催促をして、もうあちこちで戦争状態(笑)!

❶編集プロダクションと一緒につくる初期の構成台割。いわば図鑑の土台となる設計図。

❷担当編集者から細かな修正やオーダーが書き加えられ、修正の出し戻しが繰り返される。

❸写真を仮レイアウトしていく。監修者の先生からの赤字や写真のさしかえ指示なども反映。図鑑の命とも言える写真へのこだわりが戻しの言葉からうかがえる。

❹デザインされた紙面。これに校正者と他の図鑑編集者からの赤字が入る。ここまで企画から約2年の歳月を要している。

大人の予想を飛び越える、子どもたちの好奇心

-子どもたちに向けてそれだけ丁寧にお仕事をされていますが、読者である今の子どもたちをどう捉えていますか?

先日、サメのイベントで登壇したのですが、子どもたちの質問のレベルが高すぎて、私もそれなりに勉強してきたのに答えられませんでした(笑)。ものすごくよく勉強していると思います。

-すごい研究者に成長しそうですね(笑)。宣伝の立場としては、子どもたちの知識欲の強さをどう見ていますか?

島田

夏休みに親子を対象としたイベントを行っているのですが、2018年は、「私だけが知っている危険生物のひみつ」と題してココリコ・田中直樹さんと、サメ博士こと北海道大学の仲谷一宏名誉教授との対談。2017年は、「図鑑でヒトのからだを探検しよう!」というタイトルで、芦田愛菜さんと東京大学の遠藤秀紀教授との対談を開催しました。会場内にたくさんの動物の骨を展示して、少し難しすぎるかな?とも思ったのですが、子どもたちは興味津々。終演後も食いいるように見つめていました。

-やはりこちらが想像している以上に子どもたちは好きなことをどんどん調べているのですね。

島田

この2回とも、親子150組様ご招待のイベントでしたが、あっという間に満席! あと1組で会場が溢れる程の大盛況でした。質問コーナーでは挙手の嵐! 本当に子どもたちの好奇心には毎回驚かされます!

図鑑の売り方、届け方は変わった?

-子どもたちが喜びそうなイベントですね! イベントで知ってもらった後、買ってあげるのは親や祖父母の方々だと思いますが。

読者アンケートでは、「祖父母が孫にプレゼント」という回答をよく見かけます。図鑑は大切な贈り物なんですよね。「おじいちゃんおばあちゃんからプレゼントが届いたよ」「おじいちゃんおばあちゃん、ありがとう!」というやりとりが日々行われていると想像するだけでうれしくなりますね。

島田

柱になるお客様は、小学生のお子さんをもつ30歳から40歳のお母さん、そしてお父さん。次に祖父母です。読者アンケートを分析していき、どこに広告を打てば効くかを探っているのですが、最近は、圧倒的にテレビCMが図鑑を知るきっかけになっています。ただし、おじいちゃん、おばあちゃんは、新聞広告をよく見て購入されているようです。

『NEO POCKET 危険生物』の店頭POP
大きな口を開いた迫力あるサメが店頭でも目を引く『NEO POCKET 危険生物』の店頭POP、購買特典として書店に配布した子どもに大人気の特製キラキラシールなど、店頭ツールにもさまざまな“届ける工夫”を凝らす。

-なるほど。では、本を買う場所は、ネット書店とリアル書店のどちらが多いのでしょうか。

島田

図鑑は重いので、最近ではネット書店での売上も大きいですが、私たちは実際に手にとって選んで欲しいので、店頭展開を大切に考えています。テレビCM、新聞、Webなどクロスメディアに宣伝を打ちますが、お客様を書店へ導くのが大きな狙いだと言ってもいいと思います。先ほどテレビCMが効くとお話ししましたが、それでも購入動機の1位は、「書店店頭でNEOを見て」、なのです。

坂野

皆さん、図鑑を買うときは他社の図鑑と比較しながら選ぶのだと思います。そうするとネット書店より、リアル書店で購入することが必然的に多くなると思います。

-書店以外の販売チャンネルとしては、恐竜イベントへの協力もありましたね。

島田

この夏、日本テレビ系の人気番組『世界一受けたい授業』主催の恐竜イベントが、全国5か所のアリーナにて、芦田愛菜さん主演で開催されました。このイベントのことですね。日本テレビ系列でNEOのCMを効果的に流してもらうことができましたし、協力という形でイベントをコラボできたことも、大きな収穫だったと思います。

書店以外の販売チャンネルでいうと、マクドナルドのハッピーセットにNEOのミニ図鑑を付けるというキャンペーンはおもしろいし、有意義な経験です。子どもと図鑑の新しい出会いの場になったと思います。

島田

『くらべる図鑑』シリーズとプロ野球の北海道日本ハムファイターズがコラボしたこともありました。選手を動物と比べながら紹介する冊子を作製して、札幌ドームに来場した子どもたちに配ったのですが、日ハムファンの親子もおもしろがってくれていましたね。

マクドナルドとのコラボレーションで実現したハッピーセットのNEO。手のひらサイズが好評で販売早々に在庫切れになることが多い人気企画。
『くらべる図鑑』と『くらべる図鑑 クイズブック』。日常のものから宇宙までを比べることで新たな発見ができ、クイズでさらに知識を深められる。