『名探偵コナン』
歴代担当者座談会

『名探偵コナン』歴代担当者座談会

コミックス100巻突破!
『名探偵コナン』の
歴代担当編集者が
大ヒット作の秘話を
語り合う。

まず、皆さんが『名探偵コナン』を担当していた時期と、担当していて印象的だった出来事を教えてください。

僕は2011年から2014年末まで3年半ほど担当しました。
死んだと思われていた赤井秀一というキャラクターが、実は生きていて、再登場するエピソードなどが描かれた時期です。そこに至るまで、青山先生が物語の中にいろんな伏線をちりばめているところを間近で見ることができて、ワクワクしました。

僕は2015年の夏から4年半ほど担当しました。
『てれびくん』という幼児誌の編集部から異動してきたばかりで、コミック編集の経験がなかったこともあり、最初はサブ担当という立ち位置でした。メイン担当の先輩社員と一緒に担当編集の業務を行う形です。

私は2016年1月から2019年7月まで約3年半担当しました。
連載1000話記念で、新一と蘭が京都へ修学旅行に行くシリーズがあるのですが、シリーズが始まる前に青山先生と実際に京都へ取材に行きました。そこで体験した驚きであったり、京都特有の文化などを物語に昇華しながらまんがの中にどんどん取り入れられていて、さすがだなぁとうなりました。

僕は2019年から2021年の約2年間担当しました。印象的だったのは、青山先生のロンドン取材に同行したことです。当時大英博物館で行われていたマンガ展に名探偵コナンも出展しており、それを見に行く目的と、ちょうど本編でロンドンが舞台の内容が描かれるところでしたので、資料写真を撮りに行きました。本当に楽しい取材旅行でした!!

僕は2019年からN・Mと一緒にダブル担当をしていて、現在まで担当しています。
先日、単行本の100巻が発売されて、やはり記念の巻なので印象に残っていますね。編集者人生、単行本の100巻を担当できるなんて、なかなかないことだと思うので……貴重な経験をさせていただきました。

先ほど「サブ担当」「ダブル担当」という言葉が出てきましたが、基本的にコナンは2人1組で担当するのでしょうか?

必ずしも2人体制という訳ではないです。僕のときは1人体制でした。

僕のときは、新編集長となったIさんの方針で、コナンを含む、いくつかの作品がメインとサブの2人体制となりました。

私は最初、(現編集長の)OさんとY・Aさんの下に付いて「サブ担当」で、途中で「ダブル担当」に昇格しました(笑)。

サンデー全体でサブ、メイン、という体制をとっているわけではなく、新人編集が仕事を覚える意味で先輩の下に付くときはサブだし、そうじゃない体制で2人で担当することもあるという感じです。コナンの他にも2人で担当している作家さんもいますし、その辺りは仕事量を見て柔軟に決まっています。

具体的に担当編集の仕事について教えてください。青山先生との打ち合わせは、どのように行われるのですか?

僕の頃は、ひとつ事件を解決して次の事件について打ち合わせるとき、まず「トリック打ち合わせ」というものを行っていました。物語中の核となる事件のトリックから犯人の動機まで、青山先生と考えます。並行してメインキャラクターのエピソードなども打ち合わせしつつ、大体いつも12時間くらい行っていました。

そこは今でも変わってないですね。

トリックが固まると、青山先生がネーム作業に入ります。基本的に3話でひとつの事件が解決するので、3話分続けて描き上げます。細かい直しは1話ごとに打ち合わせをします。1話分のネームは3日程で完成し、その後、1話分の作画が5~6日程で完成します。

トリック打ち合わせからネームになる段階で、
大幅にストーリーが変わったりすることはないのですか?

3話完結の予定だったのが5話完結になったりということはありましたが、大きく変わったことはなかった気がします。「ネームにしてみたらトリックが1個足りなかったから、追加しておいたよ」と言われたことはあります(笑)。

青山先生はスケジュールが遅れることもほとんどありません。万が一遅れる場合も、事前に「●時頃になりそう」と連絡をくださっていました。

トリックはどのようなところから思いつくのでしょうか?

いやあ……自然には思いつかなくて、毎回必死に探していました(笑)。

同じく、本や動画をたくさん見て、少しでも何かにつかえるかも……!と思ったものはストックしています。

そうですね。あと私の場合は、他の職種の知人からヒントを得ることもありました。例えば、法律に詳しい知人が文章を書くときに「、」を「,」と書くので、理由を聞いてみたところ、裁判文書でこのような書き方をするらしいのですが、特殊でおもしろいなと思ったので青山先生にお伝えしたり。

それが採用されると、コナンくんが「,」を見て、その文章の書き手が弁護士であることを見抜くシーンが生まれるという。

あとは、歴代のコナン担当編集の先輩たちから教えていただくこともあります。

コナンを担当していた経験があると、日常で「これ、トリックに使えるかも」と思う瞬間があります。これはコナン担当編集にしかわからない感覚だと思うので、何か思いついたら現担当に伝えるようにしています。

こちらが持って行ったネタに対して、青山先生がびっくりしたときは、それがトリックに採用されるということが多かった印象です。博識な青山先生を驚かせるようなネタは、なかなか出せませんでしたが……

僕は「なるほど」という言葉もキーワードでした。打ち合わせをしていて、僕が何かに対して「なるほど」と言うと、青山先生が「今K・Oくん、なるほどって言ったね?」と興味を持たれるんです。

『名探偵コナン』はまんがの他にもアニメや映画などメディアミックスが多数されています。冒頭でも映画の仕事が増えたというお話がありましたが、編集者はどのように関わっているのでしょうか?

小学館にはクロスメディア事業センターという部署があって、その部署の人が原作サイドと映像化サイドの橋渡しをしてくれます。毎週のレギュラーアニメの会議など、クロスメディアのコナン担当者が打ち合わせをしてくださっているので、僕たちは青山先生の確認が必要なものに関わるというのが主な仕事です。

映画に関しては青山先生、監督さん、脚本家さんなど関係者が一堂に会するプロット会議、シナリオ会議というものがあり、そこには担当編集も同席します。それから、完成した映画の宣伝会議にも編集者は参加しています。配給元の東宝宣伝部さんが中心になって宣伝プランを考えてくださるのですが、原作サイドで盛り上げられる部分があれば提案します。

映画の脚本は青山先生も深く関わっていらっしゃるので、通常のまんがの打ち合わせの際に、映画のシナリオについて話をすることもあります。

青山先生を担当する中で、先生から気づかされたこと、
学んだことはありますか?

青山先生は連載の原稿執筆、取材、打ち合わせなど多忙な生活の中でも多くの映画やまんが、ドラマやアニメを見ています。一体いつ見ているのだろう? と驚くのと同時に「あの作品のココがおもしろいんだよね!」のような感想を聞くのがいつも楽しくて、勉強になりました。青山先生が勧めてくださった作品はなるべく編集部の仲間に共有するようにしています。

僕はさっき言った赤井秀一の復活のエピソードのネームを待っているとき、先生にLINEで業務連絡をしたら、赤井のイラストとともに「了解」という返事が来たことです。「了解」は赤井にとってすごく重要な意味を持つセリフなので、すごく嬉しかったんですが、僕しか見ないLINEにまでこんなにサービス精神を持って接してくださるなんて、粋だなぁと思いました。

読者だけではなく担当編集も驚かせるようなサービス精神を持ってらっしゃいますよね。私がよく聞くのは、K・Oさんが担当していた頃の話なんですが、安室透が本当は公安だという設定を、青山先生はギリギリまでK・Oさんに内緒にしていたらしくて。「それを知ったときのK・Oくんの驚いた顔が忘れられない」とよくおっしゃっていました。

たくさんあります。ちょっと変わったところだと、100巻発売記念企画「100の内緒話(シークレットストーリー)」をやるにあたり、キャラクター同士の掛け合いの原稿を100本新規作成しまして。ライターさんや宣伝部の先輩と手分けして自分も原稿の叩き台を書き、それを青山先生にご監修いただきました。自分の書いたものを先生に直していただくことなどなかなかないので、貴重な経験でした。結果、半分以上先生に書き直していただくことになってしまったのですが……。

私はコナンに関することではないのですが、青山先生は小学館新人コミック大賞の少年部門の審査員もされているんです。私の目の前で新人さんの投稿作を読まれながら、吹き出しの位置やコマ割りの大事さについて教えてくださって、すごく勉強になりました。コナンもセリフ量がとても多い作品ですが、とても読みやすいですよね。青山先生は「読みやすいまんがじゃないとおもしろくない」とよくおっしゃっていて、常に読者に対して分かりやすいまんが作りを心がけていらっしゃるんだなと思いました。

貴重なお話をありがとうございました。
ここからは編集者という仕事全体について伺いたいのですが、
皆さんはどんな人が編集者に向いていると思いますか?

難しいですね……。というのも「編集部が変わると違う国に来たみたい」と言われるくらい、雑誌によって仕事のやり方も、目的も、理屈も違うんです。僕はサンデー編集部の前は『コロコロコミック』という小学生向けのまんが雑誌の編集部にいて。そこでは、サービス精神を持っていることが大事かなと思っていました。子供向けの雑誌ではありますが、子供に目線を合わせるのではなく、あくまで大人の立場から「これがカッコいいんだぜ!」「これが面白いんだぜ!」と子どもたちにおすすめするような意識を持って仕事をしていました。

私は、コミック編集者には物語が好きな人が向いていると思います。物語とは人間の生き方全般のこと。なのでフィクションだけでなく、ノンフィクションのドキュメンタリーでも物語だと思うんですけど。そういう作品が好きで、人間に興味を持っていることが大事なのではないかと思います。あとはよく言われますが、いろんなことに興味がある、好奇心旺盛な人ですかね。いろんなことにアンテナを張り巡らせて「世の中のほとんどの人がまだ気づいていない面白いこと」を見つけられる人は向いている気がします。

僕も好奇心は大事だと思います。あとはコミック編集に関していうと、漫才師、占い師、伝道師になぞえらえることもあります。「漫才師」は喋る仕事ということで、相手に伝える能力が高い人という意味です。「占い師」は、特に新人さんに対してですが「あなたが向いているのはこっちの方向かもしれません」と道を指し示したほうがうまくいく場合があるので。決めつけるわけではないですが。「伝道師」は、作家さんが魂を込めて作ったまんがを世の中に広める人という意味です。まんがを作るだけではなく、それをどう売るかまで考えるのが編集の仕事だと思っています。

先輩、同期、後輩を見てもいろいろなタイプの編集者がいるので一概には言えませんが、正直者で、常に頑張れる人だと思います。あとは恥をかけるかどうかも大事だなと思います。

さまざまなことを”他人事にしない人”が向いていると思います。作家さんにとって大切な作品について、どれだけ愛したり、向き合ったりできるか……ということが求められると思うので。また、ターゲット読者の立場になって考えてみたり、関係者の気持ちを想像したり……さまざまな人を繋ぐ仕事なので、そうした気持ちが必要だと自分は思います。

これまでの経験が今の仕事に生きたエピソードは
ありますか?

10月に発売された単行本の100巻の宣伝施策は、コロコロコミック編集部時代の経験が生きたと思います。コロコロでは玩具メーカーと組んで、新作ホビーの発売日に向けて商品をどう盛り上げて行くかということを一緒に考えていたので、そのときの経験を生かして100巻をどう盛り上げるかという青写真を描き、各所を巻き込んで施策を考えました。

経験が生きたというより、こういう経験をしておけばよかった……という反省エピソードでもいいでしょうか?(笑)これは男性向けまんが誌だからかもしれませんが、車や麻雀、競馬がまんがのネタになることがあるんです。私はこれまで、それらについてまったく触れてこなくて。作中に出てくる車の車種が大事なのに私が分からなくて、作家さんに迷惑をかけたことがあるんです。今ではある程度分かるようになりましたが、学生時代にもっと幅広いことに興味を持っておけばよかったなと思いました。

もちろん幅広い分野の知識は持っていたほうがいいけれど、麻雀にせよ競馬にせよ学んで終わりではなくて、それによって何を感じたかの「感情」がコミック編集者には大事だと思います。まんがが感情を物語の中に落とし込んで届ける仕事だとすると、自分の中に細かく感情があればあるほど、物語作りに役立つのではないかと。

部活や習い事だったり、趣味だったり……自分が人生の中で経験したことは何でも生きるとは思います!ただ、僕もK・Oさんと同意見で自分がどこで何を感じたか、それをどのように他者に伝えるか、が一番大事だと考えています。同時に一番難しいことだな、とも思います。他には、グラビアだったり、スポーツ記事も担当していましたが、そういったまんが以外の業務で得た知識や経験がまんがの業務で役に立つこともありました。

自分の場合は、てれびくん編集部時代の経験が、コナンとすごく相性がよかったです。仮面ライダーやポケモンなど、”人気キャラクターの魅力を伝え、掘り下げ、広げていく”仕事をてれびくん編集部で丸5年間行ってきたので…。コナンという人気作品をどのように広げればファンが喜ぶのか、新しいファンを獲得できるのか、というところは、今までの経験を活かせたのでは……と思っています。

ありがとうございました。
最後に、これから小学館に入社したいと思っている
就活生に向けてメッセージをお願いします。

小学館は楽しい仕事ができる会社だと思います。個人的な話ですが、僕は1度目の就活のときに小学館は面接で落ちて、2回目で小学館から内定をもらいました。2回目の人でも拾ってくれる会社なので(笑)あきらめずに受けてもらえたらと思います。

個性を尊重してくれる会社だと思います。自分の欠点だったり、コンプレックスに感じていることが意外と仕事に生きてくることがある……気がしています。よく「ESが大変で応募をやめた」という話を聞きますが、まずはESにめげずに、応募していただけましたら幸いです!

小学館にはたくさんの雑誌があって、編集部によって仕事内容も全然違うので、いろんなことができる会社だと思います。入社してから何が武器になるかは分からないので、何かひとつでも好きなことがある人は、ぜひ積極的にエントリーしていただけるとうれしいです。

僕は入社してから一つの部署しか経験していないので全体の事は把握できていませんが、小学館は本当によい会社だと思います。苦しいときに手を差し伸べてくれる人、間違ったときに叱ってくれる人、チャレンジするときに応援してくれる人、成功したときに一緒に喜んでくれる人、そういう仲間が自分のすぐ身の周りにたくさんいます。もちろんライバルでもあるので水面下ではピリピリしていたりもしますが。だからこそ、刺激的で楽しいです!少しでもご興味のある方にはエントリーしてもらえたらうれしいです!!

小学館の中には、多種多様な仕事があり、夢のある仕事もたくさんあると思います。ご興味のある方は、是非エントリーをお願いします。