『葬送のフリーレン』
担当者座談会

『葬送のフリーレン』担当者座談会

大人の心に沁みる新感覚ファンタジー『葬送のフリーレン』
どのように生まれ、アニメ化に
至ったのか。
秘話を語り合う。

コミックス既刊全12巻の累計発行部数は1700万部超!
『週刊少年サンデー』で連載中のまんが『葬送のフリーレン』(原作・山田鐘人、作画・アベツカサ)が2023年9月から
日本テレビ系でアニメ化され、さらに人気を集めています。
皆さんは、いつからどのような形で作品に携わっていますか?

『少年サンデー』編集部で、2020年4月の連載スタート前から『葬送のフリーレン』の担当をしています。もともと原作の山田先生の担当をしていました。前作の『ぼっち博士とロボット少女の絶望的ユートピア』が連載を終えて次回作の打ち合わせに入ったので、構想段階から考えると、2017年~2018年あたりから携わっています。

同じく『少年サンデー』編集部で『葬送のフリーレン』(以下、『フリーレン』)の担当をしています。Oさんとダブル担当です。2020年6月、連載の第7話前後のタイミングで配属になりました。

コミック事業室で電子版の担当をしています。紙と電子版のコミックスそれぞれに担当が振りわけられ、営業やマーケティングの面から作品にかかわっています。部署への配属は2020年10月です。コミックスの2巻から『少年サンデー』(以下、『サンデー』)の担当になりました。

映像化の窓口を担う、クロスメディア事業センターに所属しています。テレビアニメを製作するのはたくさんのお金がかかります。そこで、製作委員会を立ち上げて、原作者の代理人である出版社、放送するテレビ局さん、アニメーションをつくる制作会社さんなどが集まって、お金を出し合い、運営しています。
クロスメディア事業センターの業務には出資における条件交渉、契約チェックなども含まれます。社内との連携もありますが、社外の方たちとの連携も大事な仕事になります。 アニメ化のオファーは、2020年の秋にはいただいていました。企画を提案してくださった皆さんと丁寧に話し合いを重ねながら、企画を預ける幹事社・東宝さん、制作会社・マッドハウスさんや放送局・日本テレビさんなどと連携して、準備を進めてきました。

アニメの初回が『金曜ロードショー』の2時間スペシャルで放送
されたのは衝撃でした!

6月30日に「初回金ロー放送」の情報が解禁されると、大きな反響がありました。
SNSでもすごく盛り上がって、『フリーレン』の存在をたくさんの方に知っていただくことができました。アニメ化のニュースで“気になっていたけど、どうやら、すごいまんがらしい!”と作品を意識してくださった方も多くて、電子版のDL数は情報解禁日の前日と比べて1000%超に。
これはすごい数字なんです。通常、「放送日決定」の情報だけではここまで伸びません。発表だけでこんなに数字に反映されるのは超異例で、“『フリーレン』は何かが違う……!”と、私たちもわくわくしました。

金ロー後のレギュラー放送が新設されたアニメ枠だったことも、うれしい驚きがありました。

日本テレビさんが「FRIDAY ANIME NIGHT」(通称・フラアニ)として、『フリーレン』のために金曜の夜11時から全国ネットのアニメ枠をつくってくださった。いまは海外含めてアニメーションが活況で、『フリーレン』がスタートした10月放送クールのアニメは70作以上もあったんです。そのクールのトップに立つのを目指すには、起爆剤として、インパクトのある何かが必要なんじゃないかな、と。
日本テレビさんとはアニメ放送前から『フリーレン』を知らない人がいないようにしたいと、相談していました。その結果が、初回金ロー放送とフラアニの新設です。なお金ローというブランド枠での長い放送歴史の中で、テレビシリーズアニメの初回放送は初です。多くの方に期待いただきましたし、ありがたいことに、フラアニ枠での放送も好調です。

アニメの放送が始まる前と後では、SNSやXのフォロワー数も3倍くらいに増えました。
アニメ化されたことで、よりキャラクターを理解できる部分もあると思います。たとえば、金ローで見せたアイゼンの水上走り! あれにはやられました。水の上を走っている姿を見て、「わぁ、アイゼンって、こんな感じでかっこいいんだ!」って。めちゃくちゃ強い戦士だったんだって、釘付けになりました。
その一方で、フリーレンが魔法で出した花畑でハイターときゃっきゃしているアイゼンがかわいくて(笑)。アニメを見ながら原作を読み返すと、それぞれのキャラクターの魅力を再発見できて楽しいです。そんなふうに原作を深く愛してくださる読者の方もいるんじゃないかなって、感じています。

『フリーレン』の作品は
どうやって生まれたのですか?

山田先生は当初、読み切り作品を描く予定でした。その中で半年ほど試行錯誤を繰り返して、「魔王が出てくるギャグまんがを描いてみませんか」と打ち合わせ相談しました。10年近く前に山田先生が『少年サンデー』へ持ち込みにきてくれた受賞作が勇者・魔王ものだったこともあり、そのベースでギャグまんがという新しい挑戦をしたら、リフレッシュになるかも、と思っていたんです。その後、描いていただいたネームが、ほぼほぼ、原作の第1話だったんです。フリーレンなど、キャラクターの名前もこの段階から山田先生の中で固まっていました。

届いたのは提案したギャグじゃなかったんですね。

ギャグじゃなかった(笑)。でも、すごく面白いと思いました。読み切りとして描いてくださったんですが、編集長には「短期集中連載です」と伝えて提出し、山田先生には第2話目の依頼と打ち合わせをしました。第2話も、ほぼほぼ、1巻に収録されている内容です。「お、面白い……! 連載にできるかもしれない……」と確信に近い感覚がありました。編集長には「(短期集中で提出していたことは伏せて)通常の週刊連載で通していましたよね?」という雰囲気(?)で第2話のネームを提出したところ、絶賛しながら戻してくれました。
ネームの時点ですでに、作画のアベツカサ先生に描いていただいていました。自分が担当していたご縁もありつつ、アベツカサ先生がこの作品を描いたらどんな表情や世界観で描かれるか興味もありました。

読み切りだった作品が、こんなにも愛される連載に……。タイトルはすんなり、『葬送のフリーレン』に決まったんですか?

企画提出のときは別のタイトルで、最終的に編集部のタイトル会議で決まりました。自腹で賞金を出してアイデアを募ったところ、当時の副編集長から出たタイトルが『葬送のフリーレン』でした。

ちなみに賞金は……。

副編集長がしっかり獲得していかれました(笑)。

(笑)。私が担当になった頃の2巻でタイトルの『葬送のフリーレン』に込められた意味が実は1つじゃないとわかって、原作ファンとしては鳥肌が立ちました。

ダブルミーニングだとわかるのは2巻の第17話ですね。

『葬送のフリーレン』は大人の心に沁みる新感覚ファンタジーとして、
幅広い層に刺さっています。

読者の方とお話ししたところ、「『フリーレン』は哀愁があっていい」と言っていただいたことがあります。「かなしみ」や「切なさ」は少年まんがらしくないのかもしれませんが、そこを新鮮に感じてくださったそうです。ファンタジーものでは勇者が魔王を倒すのがセオリーですが、魔王討伐後の世界から物語が始まる展開も、目新しく感じていただけたようです。
担当編集の本音としては、原作者の山田先生と作画のアベツカサ先生が紡ぐまんががシンプルにハイクオリティーですばらしい。やはりそこが最大の魅力かなと思ってます。

僕は勇者・ヒンメルが好きなんだけど、彼には哀愁が漂っていますよね。ヒンメルのエピソードを読んでいると、ときどきさみしくなっちゃう。そのさみしさがとても心に迫ってくる。彼の話す言葉ひとつひとつが、「“生きている”ってこういうことだよな」って、じんわりと沁みてくるんです。

たしかに。ヒンメルはそこはかとなく、ずっと切ない空気を漂わせていますね。それはきっと彼が「人」を知っていたからだろうし、知ろうとしていたから。だからフリーレンにも、ああやって影響を与えたんだろうなって。作中では多くを語られませんが、そんなふうに想像させる奥行きがヒンメルにはあると思います。

そう、そこがすごくかっこいいなと、沁みるところ。

ヒンメルは愛されキャラでもあるんです。2022年に開催した「総勢100キャラ人気投票」でも1位でした。

2位のフリーレンと、まぁまぁ競り合っていたような。

そうそう! ヒンメルはナルシストキャラなのに、こんなにみなさんから愛されているんだ、って。きっと愛嬌があるからなんでしょうね。

わかります。ヒンメルは見ていて“くすっ”としちゃう、チャーミングな人ですよね。

冒頭のお話にもありましたが、アニメ化のオファーは早かったんですね。

ありがたいことに、早かったです。連載の第1話から評判が良かったことでたくさんのオファーをいただき、2021年に「マンガ大賞」の大賞を受賞したことでも注目が高まりました。

その流れもあって、2021年初夏頃からアニメ化へ向けて本格的に始動したんです。

Bさん、また、Bさんの部署の多くの先輩方にご協力いただき、小学館社内でも各部署が連携しながら調整を重ねましたね。

Oくんは企画を提案してくださった社外の皆さんとの話し合いにも立ち会って、そこで「多くの人に観てもらえるアニメ作品にしていただきたいです」と、熱っぽくお願いしていた姿が忘れられない。

「すてきなアニメを作っていただきたい。『フリーレン』をたくさんの人に知ってほしい」という想いは強くもっていました。「マンガ大賞」をいただいて多くの人へ届いていることを実感していたタイミングだったので、アニメを通じて、さらに多くの人へ作品が届いてほしいと願っていました。

販売担当としても、アニメ化が発表されるタイミングでしっかりと作品を知っていただけるよう、プッシュしました。各電子書籍ストアさんで“アニメ化決定記念フェア”を組んでいただいて、認知度アップを狙いました。

原作がたくさんの人へ届いているのは、販売をはじめ、各部署の皆さんのおかげです。コミックスの1巻も新人作家としては異例の大きな部数で刷っていただきましたし、電子も好調です。編集部は、漫画家さんと共に作品を“生み出す側”で、宣伝や広告、アニメ化などを担当する各部署の皆さんが作品を“広げる側”。そんなふうに、基本的な役割を分担しています。

紙の販売チームは、フリーレン柄のエプロンをつくって、書店さんへ配布していました。書店員さんも一緒に盛り上がっていただけたらと、フロアで身につけられるユニフォームをつくったんです。実はさりげなく放送日の告知も入っていて、書店へ来てくれた読者の皆さんにアニメをアピールできるようなデザインになっています。

書店さんの協力も心強かったですね。いつも売り場を凝った飾りつけにしてくださる書店さんが仙台にあって、出張時に訪れたら、今回もすごくすてきに飾ってくださっていました。杖のレプリカまであったんですよ。
ミミックの展示物をつくってくださっている書店さんにも感激しました。どれも心遣いがうれしくて、写真を撮らせてもらって公式のSNSに載せています。
ミミックも読者の皆さんに人気が高いんです。2022年の「総勢100キャラ人気投票」ではヒンメル、フリーレンに続いて、堂々の3位でした。

アニメ化を前に、
小学館の雑誌各誌でも“フリーレンフェア”が
行われました。

9月の放送スタートにあわせて、雑誌横断企画をしたんです。「『フリーレン』を自分の編集部のものだと思って使ってください」と各誌へお願いしたところ、たくさんの編集部が手を挙げてくれました。総合週刊誌の『週刊ポスト』が特製シールを付録につけたり、ファッション誌の『CanCam』や『Oggi』が特集を組んでくれたり。コミックとはジャンルの違う雑誌も、愛をもって協力してくれました。

『小学8年生』や『コロコロコミック』では試し読み企画をしてくれましたね。

『コロコロコミック』に連載しているまんが家さんがコラボして、表紙にフリーレンを描いてくれてね。これもすごくうれしかった。

『ベツコミ』や『女性セブン』にはアニメの声優さんインタビューが載っていました。『女性セブン』ではQRコードでヒンメル役の岡本信彦さんの限定ボイスを配信していましたね(岡本さんの動画は2023年12月31日までの限定公開)。

初回放送を前に、『少年サンデー』編集部としては原作コミック最新刊を発売しました。

缶バッジ付きの特装版も出しました! アニメの放送にあわせて、画集やポストカードブックなど、関連書籍も盛りだくさんに発売されています。

雑誌横断企画もあって、放送前にたくさんの方がたへアピールできました。原作コミックはアニメのスタートで大きく重版がかかって、累計1000万部突破とうれしい結果に。

そこで、累計1000万部突破とXフォロワー数10万人突破を記念して、原作のエピソード人気投票を実施しました(投票期間は終了)。投票は何回でもOKで、アニメと連動して投票して、その流れで原作を読んでくれる人も増えたんです。

自分でも投票した?

もちろんです! 自分が好きなエピソードに投票しました。

Yがエピソード人気投票の発案者なんです。
「こんな企画があったら、アニメと原作の宣伝につながるかも」とひらめいたら、すぐにLINEで連絡がきます。編集長もグループLINEに入っていて、お金がかかわるような企画であれば、僕から編集長に許可を取る。同じ作品の担当として、コンパクトで密なコミュニケーションを心がけています。「やりたい」と思ったことは、編集長込みですぐに相談できる環境にあります。
単なる思いつきではなく、熟慮して練られた企画であるものの、Yの発案はこれまでほぼ実現していると思います。

はい。自分の声もしっかり届いているんだなと感じられて、発言しやすいです。それを励みにフットワークも軽くなります。

就職活動をしている
学生へメッセージを

さっきの話の続きですが、社会人になったら、「思い立ったが吉日」の精神で身軽に動くことを勧めます。やろうと思ったプランがあっても、提案せずに温めていると、機を逃してしまうもの。頭に浮かんだアイデアを企画書として形にすることも大事ですし、ときには「やろうかなと思います」と、思いついたらすぐに相談してみる機敏さも必要です。
まだ『フリーレン』を知らない人やアニメを見て知ってくれた人と作品の接点をつくるのも、僕ら担当の役目。エピソード人気投票に続いて、イラストコンテストも実施しました。

仕事となると、大変なことやつらいこともありますが、どんなときでも自分の仕事に楽しみを見つけられる方と一緒に働けたら、私たちもうれしいです。
私の楽しみは、自分が好きな作品にかかわれること。そもそもまんがが好きで、『サンデー』も好きなので、世に出るいちばん最初の段階で作品に触れられるのは、なんて幸せなんだろうって、毎回にやにやしちゃいます。
『フリーレン』は仕事としても読みますが、週末にリラックスするときにも自宅で楽しく読んでいます。新刊が出たら、すかさず1巻から読み返しています。いちばん読むのは、シュタルクが出てくるシーン。推しの活躍はやっぱり読み返しがちです(笑)。
そんな大好きな作品を世に伝えるのが私のいる部署なので、毎日楽しくて仕方がないです。自分が愛するものをみんなに「おすすめだよ!」と広めることを仕事にできて、幸せに感じています。

『フリーレン』の第1話は「人を知る旅」として幕が開けますが、人が好きな人は出版社に向いていると思います。物語が感情を届けるものだとすれば、人の感情の動きに真剣に向き合っているまんが家さんと打ち合わせする際にも、想いをわかちあえる人がいい。人が好きで、コミュニケーションに長けている人は、創作でも力を発揮すると思います。
『少年サンデー』のような週刊誌だと、LINEや電話で頻繁に業務連絡が入りますし、作家さんとの詰めの作業が深夜に及ぶこともあります。僕はそうした仕事の密度が充実度として楽しさにもつながっているので、まんが編集部はやりがいがあると思います。

『サンデー』は大所帯なので、チーム感がすごくありますよね。編集部全体の結束力も仕事をするうえでの面白さだったりします。

うちの部署は少人数なので、大所帯はうらやましい。ぜひ、元気な人に入ってきてもらいたいです。ただ、クロスメディア事業センターは「自分がこうしたいんだ」という熱意だけが強いと、難しいかもしれない。
『フリーレン』など原作をつくっているのは編集部ですし、それを世に広めて育ててきたのは、営業の力。その土台があって、社外の方がたと組んで最適な形で作品の魅力を世へ届ける。それが私たちの仕事です。そこで私たちが第一に守らないといけないのは、原作者。その軸がブレてはいけないんです。
ただ、映像化の制作には多くの方達にかかわっていただき、熱意をもってつくっていらっしゃいます。映像側のクリエイティブな皆さんの想いを尊重しつつ原作とのバランスにときに悩むこともあります。また出資における条件面の交渉、そして契約確認といった丁寧さを求める作業も多いので、それをいとわない人は楽しさを見つけられると思います。

作品を世に届けることは共通していますが、販売の仕事とはアプローチが違いますよね。

新入社員で配属されることは今まではあまりない部署ですが、長い目で見て興味をもってくれる人には、ぜひ入ってきてほしい。『フリーレン』のアニメは、ほぼ全世界で配信が決まっています。まんがやアニメをこれだけ世界の人が好きになってくれて、日本の作品を求めている。『フリーレン』も半永久的に愛される作品になることを願っていますし、出版社として、これは大きなチャンスです。これからの未来を担う若者を待っています! 僕も会社員として年次を重ねてきて、最近は老齢のデンケン的な思想なんです(笑)。

いやぁ、デンケンいいじゃないですか。“最後まで足掻く”、泥臭く情熱を燃やす姿が僕は大好きです。

わかる! 文句も言わず耐え忍んで、闘志をたぎらせる熱さにしびれる。2024年からのアニメ2クール目で、デンケンがどう描かれるのか、とても楽しみなキャラクターです。