『マンガワン』編集者座談会

『マンガワン』編集者座談会

2024年に10周年を迎えた『マンガワン』。
各々が語る“漫画編集”の魅力や、仕事に込める想いとは。

※本記事の内容(巻数、部数など)は取材当時のものです。

Vol.7

\ 対談メンバー
『マンガワン』チームの皆さん

M.S

M.S
第四コミック局
マンガワン編集室
デスク
2013年入社(経験者採用)

M.F

M.F
第四コミック局
マンガワン編集室
編集長
2007年入社(経験者採用)

C.S

C.S
第四コミック局
マンガワン編集室
2017年入社

S.S

S.S
第四コミック局
マンガワン編集室
2020年入社

『マンガワン』

3400万DL(2024年12月現在)を誇る漫画アプリ『マンガワン』。著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスとして、オリジナル作品の漫画や小学館の単行本3万冊以上が配信されています。

『マンガワン』編集部篇

Q1 2024年に10周年を迎えた『マンガワン』について教えてください

皆さんの『マンガワン』所属年数、担当は?

M.F

『マンガワン』へ配属されて4年目、編集長を務めています。主に各現場の編集者からあがってきた新作漫画の確認やブラッシュアップ、責任を負う役割があって、アプリのアップデートなど運営、新規事業の開発なども含まれます。一編集者としては『少年院ウシジマくん』『アヤシデ 怪神手』の担当もしています。

M.S

3年目です。デスクと班長をしています。担当作品は『全部救ってやる』『ラララボ☆~ギャルと科学と青春と!~』『セカンドバージン・セカンドライフ~バツのち、セフ活~』『天女様がかえらない』です。

C.S

5年目で、班長をしています。作品は『日本三國』『レ・セルバン』『鬼龍伝』『その炎の名は性癖』『CHANGE THE WORLD』を担当しています。

S.S

新卒で『マンガワン』に配属されて5年目になります。連載作品の立ち上げ、『拡散型投稿サイト #マンガイチ』の運営・企画立ち上げに携わっています。連載中の『風の槍』『ドラゴン養ってください』『受胎の売人』担当です。

10周年にアプリのデザインを全面的にリニューアル。サービスの拡充や単行本の配信開始など大幅なアップデートを図って、Google Play ベスト オブ 2024でベストアプリを受賞しました。

M.F

10周年のデザインリニューアルはS君が担当したんですよ。

S.S

はい、UI(ユーザーインターフェイス)/UX(ユーザーエクスペリエンス)の変更などを担当しました。

M.F

紙の漫画編集部であれば、編集者は作品をつくることに集中するものですが、『マンガワン』ではいろいろな仕事があるんです。アプリのUI/UX変更もひとつですが、Mさんがいるチームには小学館の他の編集部でつくった漫画を『マンガワン』に掲載するための仕組みづくりや、書店の機能をどうアプリに付随させるか、ユーザーに訴求するためにどんな広告を出すか、といった案件も進めてもらっています。広告代理店のクリエイティブから電子書店のような仕事まで幅広くあって、それぞれの編集者が何かしら兼務しながら漫画をつくっています。

M.S

紙の漫画雑誌編集部から異動してきたので、漫画づくり以外の、デジタル分野における仕事の幅は驚異的だと感じています。でも、漫画をつくりながら、違う分野の経験もできるのはラッキーだなって。大変に感じるよりも、面白さが断然勝っています。プロジェクトを割り振られる前には編集長の面談があって、意見も聞いてもらえますしね。

M.F

コミュニケーション力の高い人、データ管理が得意な人など、プロジェクトごとに私が適任だと考える人に頼みますが、まずはやりたいかどうか、本人の意思を確認するようにしています。UI/UXリニューアルをSさんにお願いしたのは彼が非常に優秀であることも理由ですが、未来のベクトルを決めるデザインですから、『マンガワン』が20周年を迎える時に支えてくれそうな人を抜擢したかった。そこで、若手でものすごく頑張っている彼に声をかけました。

S.S

そう言ってもらえてありがたいです……!

M.F

新しいデザインはベテランよりも次の世代に担う人が決めたほうがいいです。アプリは先々、その人たちの“お家”になるわけですから。漫画家さんにとってもそうです。自分の作品が掲載されている媒体がイケてるかどうかは大切だと思っていて。これから先も集まりたくなる、そして居心地のいい場であってほしいと願っています。

H.Y

Q2 『拡散型投稿サイト #マンガイチ』について

漫画家さんについては『#マンガイチ』を通じて、新人の発掘もしていますね。

S.S

今はSNSで自分の作品を手軽に発表できる反面、タダで読まれて消費される漫画が多すぎると思うんです。“すべての面白い漫画に対価とプロへのチャンスを”の気持ちを込めて、入社2年目にプロジェクトを提案しました。上司と企画を詰め、ワイヤーフレーム(Webページの設計図)を自分で組むところから始めて、ローンチしたのが3年目の2022年です。

随時審査をしているのが『#マンガイチ』のユニークな点です。

S.S

投稿作品は随時目を通して、編集部の誰かが評価したら“いいね!賞”として即日、Amazonギフト券5000円分を発行します。大手出版社の漫画雑誌では仕組みとして、マンガ賞の結果が出て賞金が振り込まれるまで半年ほどかかるんです。一等賞になれば半年後に大きな賞金がもらえるけれど、ほとんどの人がもらえない。それよりもすぐに5000円が届けば、ペンタブの先端が壊れているから換えたい、アナログのトーンを買い換えたいといった費用に充ててもらえます。評価を得ることが明日からの創作意欲にもなると思うので、スピードは大事にしています。僕自身が学生時代に他社さんで漫画連載を目指していた経験があるので、作家さんの立場になったら何が嬉しいかという点は意識しました。
応募方法も簡単で、作品が読めれば紙で描いたものを写真に撮って送ってもいい。応募要項って小さい字で細かくたくさん書いてあって、難しいんですよ(苦笑い)。『#マンガイチ』では、漫画が面白いことがすべて。応募を簡単にすることで、いろいろな角度の作品が集まってきて、月末の審査会も毎月楽しみです。

月によって『バトル漫画賞』『ONE賞』など、『マンガワン』で活躍されて
いる漫画家さんが審査員長を務める審査会も注目を集めています。

S.S

『#マンガイチ』の認知度もあがってきて、全体的に応募者数も増えています。漫画家さんが審査する月は、先生たちの審査基準も勉強になります。編集者とはまったく評価が違うこともあって、そういう着眼点もあったのかと。『#マンガイチ』では“いいね!賞”以上を獲得したすべての受賞者に担当編集がついて、連載までサポートします。新人の作家さんがそれこそ趣味で誰にも見せることがなく、日々のつらさを吐き出すようにひとりぼっちで描いた、そんな作品から収入が生まれて、『マンガワン』を通じて多くの読者さんへ届く。そういう場に携われるのはこのうえない喜びですし、漫画編集者の醍醐味だと感じています!

H.Y

Q3 漫画編集部なのにYouTube!? 新企画『ウラ漫-漫画の裏側密着-』とは

2024年には、『マンガワン』編集部の裏側を配信するYouTube
『ウラ漫-漫画の裏側密着-』が誕生しました。

C.S

2024年1月26日に配信を開始しました。映像制作会社から動画企画のお話をいただいて編集長に相談をしたら、すぐに企画が通った。面白いこと、アプリにとってプラスになることは、実現までのスピードが極めて速い環境にあります。
『マンガワン』の前身は2012年に発足したWeb漫画『裏サンデー』という、“まったく新しい、面白い漫画媒体をつくろう!”と『週刊少年サンデー』の有志が立ち上げたサイトなんです。その社内ベンチャーのような熱っぽいノリが、今も続いている。徹底的に合理的で、「良いものはやってみよう」の精神で突き進む。誰かがやりたいことを見つけたらみんなで応援して、どうしたら実現できるか知恵を寄せ合う。そんなスピード感もあります。

『ウラ漫』では編集者の密着や編集会議の様子、自宅のルームツアーなど、“そこまで見せちゃうんだ!”と思うような、踏み込んだ部分までオープンにしています。

C.S

動画のプランは主に映像制作会社のディレクターさんによるものですが、たとえば「これから作家さんと打ち合わせがあるので、よかったら撮りませんか」など、こちらから提案もします。『ウラ漫』は作家さんへ向けて発信をしようと考えて、立ち上げたんです。漫画業界の問題として、編集は作家さんを知っていても、作家さんは編集を知らないという状況がある。そこを打破したかった。持ち込みを例にとっても、たまたま作家さんからの電話を取った編集が受け持ちとなって、“編集ガチャ”という言葉があるくらいです。でも、作品と編集のマッチングが運任せでうまくいかなければ、作品にとって損になる。その作品に最適な編集と組んで、世に出ていくべきだと考えているんです。
そのズレを生まないために『マンガワン』にはこんな編集者がいると、動画を通じて伝えたい。それを見た作家さんが、この人たちと一緒に仕事をしてみたいなと興味を持ってくださったら、嬉しいなと思います。

S.S

一緒にお仕事をしたい作家さんに声をかけた時に、「Sさんのこと、知っています。動画で見ました」という反応をよくいただきます。編集部として3~4か月に1度ほど、漫画の展示即売会『COMITIA』主催の「マンガ出張編集部」に参加しているのですが、『マンガワン』を選んで持ち込みをしてくださる作家さんの数も、ありがたいことに以前より増えています。これも動画で顔が見える安心感なのかなと、感じますね。

C.S

僕は以前からXで自分をさらす活動をしてきましたが、動画に出るようになって、DMを通じた持ち込みが圧倒的に増えました。漫画の作品づくりはとても繊細な活動で、信頼関係がないと成り立たない。その基盤として、編集が作家さんに信頼していただく必要があるんです。信頼を築く第一歩として、作家さんには自分という人間や価値観をさらけ出します。家族や親しい友達にも言っていない、本当は隠しておきたいようなことでも作家さんには打ち明けて、“僕はこういう人間です”“こういう価値観を持っています”“それに基づいて、こういうものをかっこいいと思っています”とありのまま伝えている。
その積み重ねが共通言語となって、作家さんにとって創作の指針となる。打ち合わせの半分は雑談というのが僕のスタイルで、お互いを知る過程で半日以上、共に時間を過ごすこともあります。そうした作業の一端を、動画も担っていると感じています。

S.H

Q4 『マンガワン』のこれから

『マンガワン』の未来図として皆さんの夢は?

M.S

『マンガワン』は男性向け、女性向け、大人向け、異世界系など、漫画の傾向が雑多で老若男女誰でも楽しめるところが、アプリの特長です。もっと女性のユーザーに読んでもらいたいという意味で、女性の共感度が高いジャンルでヒットを多く出したいという夢があります。

S.S

一番読まれる少年漫画で作品をつくり続けること。そこでヒットを出すのが目標です。

C.S

アプリとしても個人としても、場づくりに関心があります。『マンガワン』があることで面白い作品が生まれる、そうした機能を持った場に育てたい。仲間と言えるような作家さんたちと“俺たちの面白い”で、世の中の“面白い”の価値観を転覆したい気持ちが強くあるんです。ただ売れることでしか達成できない目標なので、媚びず、妥協せず、自分たちが面白いと信じるものをもっと売る。10年を超えてしまうと自分の感覚が最前線でいられる自信がないので、10年以内、自分が30代のうちに達成したいなと考えています。

M.F

Google Play ベスト オブ 2024のベストアプリもいただき、アプリはいい方向へ進んでいる。部内にはいろんな才能を持った編集仲間がいて、めちゃくちゃいびつでオンリーワンの漫画をつくってきます。それが『マンガワン』の日常であり個性。今よりもっと面白い漫画をつくる熱量も力量も秘めている。それぞれが自分を信じて、バラバラの専門分野で一等賞を獲ること。突き抜けたものが集まれば、漫画メディアで日本のトップを獲る可能性は十分にあるから。日本で一番になれば、マンガにおいては世界で一番なわけで、『マンガワン』が世界一のアプリになる。マンガワンが覇権を獲れる予感はしているんです。

S.S

獲りたいです!

M.S

編集長のその言葉を聞いたらみんな、元気になりますよ。“私たちはこんないい編集部にいたんだ!”って。

H.Y

就活篇

Q1 『マンガワン』に合うのはどんな人?

YouTube『ウラ漫』で漫画編集者の活動や人となりを知ることは、就活にも役に立ちそうです。

C.S

就活生の皆さんも、動画を見て“この人たちと一緒にやりたいな”と興味を持ったら、来てほしいです。

M.S

でも、“こうなりたいな、こうならなくちゃいけないな”と、寄せにいかなくてもいい。編集部には今29名の仲間がいますが、各々考えていることも違って、タイプもバラバラです。“いろいろな人がいるんだな”と思ってくれたらいいと思います。

C.S

そうですね。究極、“『マンガワン』ってこんな感じね。俺が変えてやるよ”ってスタンスでもかまわない。

M.S

“じゃあ、ここは自分が必要でしょう”って。動画にあれだけの人数が出ているのは、だからこそ意味があるなって。

M.F

ウチの編集部は出ている人だけじゃなく、みんな、気立てがいい。そうでないと作家さんと円滑に信頼関係を築けないので、漫画編集者として大切な要素だと思います。

S.S

気立てに自信のある方、待ってます(笑)!

M.S

編集部にいると、チームメイトから学んだり、より一層相手のことを思えるようになっていく。そんな側面もありますよね。

M.F

だからといって、明るく外交的な人だけを求めているわけではなくて。内向的でもオープンマインドな人ならいいんです。ここにいる人たち、だいたいみんなそうだから(笑)。自分に中にある感情を言語化できればOK。自分のことを理解して、伝えられたらいいんです。しゃべることで自分について理解が深まることもある。優秀な漫画家さんほど、おしゃべりです。自分の感情がヒットしたかどうかで、会話が作品の1シーンやせりふに反映されることが実はよくあります。作家さんも含めて、漫画はオープンマインドが重要視される業界なんですよ。
あとは漫画愛、漫画家愛はとても大切です。めちゃくちゃ作品を読んできているな、漫画に埋もれて死にそうだな、と思わせるくらい熱量のある人は信頼されますよね。漫画が心底好きで、どれだけでも没頭できるような人。たとえば、朝起きて作家さんから連絡が入ってたらすぐに連絡をします。そのまま打ち合わせが始まってしまうこともざらです。もしそこで自分のルーティンを優先して返信を後回しにすれば作家さんを待たせてしまうし、効率も落ちてしまいますから。

S.S

描いている側としては、返事を待つ時間はものすごく、しんどい。編集者にネームを送った瞬間から“返信がこない”“つまんなすぎて怒っているのかな”と、不安でごはんものどを通らないんです。逆に、編集者がちょっとかけてくれた「キミには才能がある」という言葉を本当にお守りのようにして、ただただ信じてひたすら机に向かう。そんな経験があるので、自分が逆の立場になって、ちょっとした言葉遣いや返事の速さは作家さんへのリスペクトを持って振舞わなければいけないと、気を引き締めています。

M.F

私が仕事を最優先できるのは、漫画づくりが好きだからでもあります。どんな漫画を描いてくれたのか気になるし、打ち合わせの想定よりもはるかに面白い漫画が届く瞬間が楽しみでもある。だからネームが届いたら、すぐに読みたいんです。よく冗談で、「趣味で漫画編集やっています」と言っています。それくらい漫画編集の仕事は面白い。

S.H

Q2 「漫画編集者」という仕事の魅力

作品への向き合い方からも、漫画愛の深さが伝わってきます。
皆さんが漫画編集者をめざした背景は?

M.F

やはり、漫画愛が根底にあります。もともと青年誌は好きでしたし、某少年漫画誌は小学2年生から30歳まで1号も欠かさず読んでました。前職は音楽・映画系の編集者で楽しく取材をしていたのですが、途中から業務が広がって上司になると会議ばかりの生活で行き詰まりを感じてしまって。少人数で二人三脚の仕事をしてみたいと考えた時に、漫画編集者が浮かんだんです。作家さんが描くものをプロデュースする、今の仕事に魅力を感じました。

S.S

創る人を支える側の仕事に惹かれた、という点では自分も同じです。大学と大学院では哲学を学び、研究しながら漫画を描いていたのですが、大学院の時代にとあるアニメーションプロデューサーの方の元でバイトしたことが転機となりました。現場にはその人のために絵を描きたいと、日本中のすごいアニメーターが集まっていた。その光景がカルチャーショックで、背中を見てかっこいいなって。自分は昔から漫画が好きだったので、漫画編集者として作家さんと組んで漫画に貢献したいなと思ったんです。

C.S

大学時代に演劇をやっていて、自分の劇団を立ち上げて脚本を書いたり、演出をつけたりしていました。作家もプロデューサーも経験してみて、プロデューサーのほうが楽しいな、向いているなと感じました。才能をプロデュースする仕事を考えていた時に『マンガワン』に出会って、めちゃくちゃ面白そうだなって。当時、漫画アプリは他にもちらほらありましたが、どれも雑誌のオルタナとしてのアプリだった。その中で『マンガワン』だけは“新しいカルチャーを作るぞ”“新しい面白い場を作るぞ”という気概に溢れて、明らかに面白いことをやっていたんです。
僕自身、漫画は大好きでしたが、紙の雑誌では読んだことがなかった。でもアプリでは毎日読んでいた。そういう若者だった僕やニュージェネレーションにとっては、これからはこういう媒体がカルチャーを発信する最前線になるんだろうなって。だから他のアプリ、他の出版社ではなく、『マンガワン』へ行きたい。自分にとっての就活は一択でした。その気持ちは今も変わらず、“これからは僕たちの世代が漫画の新しいカルチャーを発信するんだ!”と、わくわくしています。

M.S

漫画が好きだったからですね。小学生の頃には描き手になりたいと思っていましたが、学生時代にクリエイターが作品づくりをする姿に触れて、ここまでの集中力は自分にはないと痛感したんです。私には、作品づくりに集中している人の作品を世の中へ出す手伝いのほうが向いているかもしれない。だったら漫画編集者をやってみたい、と。新卒で受けた時にはご縁がなく、別の企業に就職して、ドラマCDのプロデューサーなどの仕事をしていました。やりがいもありましたが、自分は漫画編集者がやっぱり夢だった。専門的な会社で仕事の幅が限られるということもあって、せっかくなら、いろいろなことができる可能性を持った総合出版社へ行きたいと、3年目で小学館の中途採用を受けました。

H.Y

Q3 小学館はどんな会社?

入社して、総合出版社の強みを感じたことは?

M.S

数えきれないほどあります。困っても、何かしら社内で情報や解決策が得られる。入社してすぐに『おそ松さん』のテレビアニメが始まって、これは絶対に流行るし、コラボしたいと思ったんです。小学館から出すなら、小学館が刊行している『小学○年生』シリーズを模したパロディ本がつくりたいと学年誌の編集部へ相談したら、学年誌らしくつくるノウハウを教えてもらえました。学年誌ならではの、折りたたんで作るミニ本や銀はがしといった付録の作り方は、制作の部署に学びに行きました。制作局には紙や付録のサンプルがズラーッとあって、触りながらどんな質感のものがいいか、オススメしてもらうこともできます。こんなふうに紙のプロとか、社内にたくさんのプロがいて、いつも助けられています。

M.F

人脈でも助けられる。私も、陸軍中野学校が舞台の漫画をつくるために昭和初期の資料を探していた時、社内に知っている人がいますよと、専門家まですぐたどり着けた。おかげで当時の貴重な資料を膨大に提供していただけて。そういうことが多々ありますね。

M.S

創立から100年以上の歴史もあるので、資料写真も豊富にある。なんとかの頃の写真ないかなと調べていると、たいてい社内で見つかります。

M.B
就活生へのメッセージをお願いします!

就活生へのメッセージをお願いします!
M.F

学生時代に創作活動をしてみるのはいいんじゃないかな。バンドをやるとか、映画を撮るとか、もしくは映画を死ぬほど観て、映画館でバイトをするでもいい。漫画でも小説でも音楽でも、カルチャーの造詣度合を深めることも大事だし、そういう創作の時間と向き合うというか。漫画編集者になったら、仕事の一環として延々と創作と向き合うわけだから、そこが好きじゃないとむずかしいと思います。

C.S

同感です。僕もカルチャー全般が好きですが、音楽ひとつとっても、30代になっても毎年新譜を聴き続けることは普通じゃないんだなって。中高の友達とは昔の曲で盛り上がれても、友達はもう新しいバンドを追っていないし、ライブは数年行っていない。離れてしまうほうが多数派です。僕は未だに映画も漫画も舞台も当たり前に毎日、摂取し続けている。編集部ではみんなもそうだから、そういう人はハマるのかな。

M.F

私は学生時代に放送している連ドラをすべて見ていたんですよ。でもその当時はただ無駄にドラマを見ているだけだと思って、その行動の価値に気付いていなかったんです。今になって、出版社の面接でそれを言う学生がいたら採用するかもなって。自分がやっていることは実はすごいことだとわかっていない就活生は、多いんじゃないかな。

M.S

就活本には“ガクチカ”が面接の模範解答として載っていて、いかに社会的意義のあることしたかやリーダー経験を語りたくなる。だけど漫画編集者としてこの人いいなと光るポイントは、それだけに限らないと思います。連ドラをすべて見ていましたとか、家でずーっと蟻の観察をしていましたとか、すごく魅力的な自己アピールだと思います。大事なのは、どう言語化するか。「なんでそういうことになってしまったかというと……」と、ストーリーで面接官を引き込むことができるか。面白く語ったもの勝ちです。

S.S

自分の経験では、先輩からESに固有名詞がないと指摘されました。かしこまって、ふわっと頑張ったことやマインドのことばかりを書いていて、ESが抽象的な内容になっていたんです。でも、そこに具体例を入れると、全然違う。たとえば、大学で頑張ってきたことが「蟻の研究」だったら、「“女王蟻の一生”の研究」とより具体的にしたほうが、絶対に面接官も食いつくはず。できるだけ固有名詞を意識して、自分は何が好きかを考えると、伝わりやすいと思います。

M.S

自分はリーダー的存在ではなかったかもしれないけれども、女王蟻だったら全部わかるぜ、みたいな人も、小学館に向いていると思います。図鑑の部署などでも力を発揮できそうだなと思ったりしますね。

C.S

僕は、ESのすべての項目が「あなたがどんな人間か」を知るために存在していると考えている。“小学館の強みを教えてください”とOB訪問でもよく聞かれると思いますが、そこでも模範解答は求められていないと思います。あなたが思う強みをそのまま語るほうがいい。僕は「『マンガワン』があるからです」と答えました。「他社にも漫画アプリはあるのに、あなたにとって『マンガワン』があることが強みなの?」となれば、しめたもの。それこそがオンリーワン性のアピールになる。他の人にとって差異ではないポイントを自分は強みだと思っている点で、自分はこういう人間だと伝えられる。おすすめの本でも、すべて自己アピールのチャンスと捉えて答えるといいと思います。
漫画づくりは今、熱い。「漫画」というものがアニメカルチャーを伴って世界一の文化、コンテンツとなっている。漫画にさほど興味がなくても、世界一のコンテンツをつくりたいと思うなら、漫画編集者は限りなく近い職業なんじゃないかと。自分がつくった作品がメディアミックスを通じて広がっていく、そのチャンスがある職業も少ないと思う。漫画編集者はその場所へ、1年目から立つことができる。何か世界レベルの土俵で勝負したい人には日本の出版社、かつ『マンガワン』はピッタリです。

M.F

1年目から漫画の部署にいなくても、異動して編集者になる人もいるし、私やMさんのように転職してくる人もいるし。マンガワンだと、それまでの経験も生かしてもらいつつ、漫画編集者としてのキャリアを積んでもらえます。ただ、漫画編集者は大工さんや美容師さんのような職人仕事なので、一朝一夕にはうまくなりません。でも、じっくり向き合って編集者を育んでいく社風があるので、ぜひ飛び込んできてください。